思考論_第一章_のコピー

3-6|日本の産業はロボティクスに注力せよ【1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法】

日本のモノづくりについては、モノづくりの礎が「禅」と「アニミズム」にあることを再確認しよう。

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たくさんの方に手に取っていただいた「1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法」(プレジデント社)。大反響を記念して、5/5限定で全文を公開します! 令和時代の生き方・働き方をぎゅっと凝縮した一冊です。

禅とアニミズムという原点に戻る

シンプルを基本とした無印良品やiPhoneはもともと禅の精神からきている。一方、パナソニックの「Let's Note」、ソニーの「ウォークマン」、ホンダのエンジンなどは、神は細部に宿るというアニミズムの精神が基本にあった。 

すり合わせ文化とロボティクス

 日本企業の強みをよく考えてみると、やはり価値観を共有したメンバーがすり合わせながら一つの製品を作る力である。

 これまでの代表的なものが自動車だ。複雑で何万点にもわたる部品の組み合わせ、アフターサービスや金融との掛け合わせが一貫性を持ってユーザーに提供されている典型的な日本企業の製品である。

 だが、電気自動車への世界的なシフトとAIの導入によって車は、職人技の光る機械系統ではなく、モジュール化された部品の組み合わせ電化製品へと変わってしまった。

 端的に言えば、自動車は差別化の難しい製品へと落ち着きつつある。こうなると高度なすり合わせ文化が生きてこない。

 一方欧米ではマイクロソフト以降、フェイスブックやグーグルなどの隆盛はすり合わせ組織文化ではなく、天才たちによるアルゴリズムの開発に強みの本質がある。しかし日本はこの分野が弱い。

 日本が強いのは、アルゴリズムからソフトウェア・ハードウェア、ネットワーク、サービスまでの長いバトンリレーを経てユーザーに価値を提供する仕組みである。

 古くは造船、これまでは自動車がその対象だったが、次に日本企業が取り組むべきは、本格的なロボティクス(ロボット工学)や宇宙開発である。この分野は巨大かつ複雑な機能の組み合わせで成り立っており、利益として得られるマージンも高い。当然コモディティ化していない。21世紀の半ばまで、もし日本が経済で隆盛を誇れるとしたら、ロボティクスに注力すべきであろう。

人生を生存から創造へ変えよ

 仕事論の最後に、次のトピックである生き方へと続く話で締めくくりたい。

 拡大・膨張路線を行く先進国では、いまだに大量生産・大量消費のサイクルによって経済を回し続けることが前提となっており、実際に人が生存していくために必要なものは余っている。

 日本では全国的に人手不足で、有効求人倍率はバブル期を超えた。また、電通過労自殺問題に端を発するように、長時間労働が問題視されている。だが、そもそもこれ以上人を集めて長時間働いたところで、一体何を生み出そうとしているのだろうか。

 しかも日本企業で働くサラリーマンの実態として、仕事の大半は価値創造とは無縁の会議や、他の部署の仕事を作り出すための資料作りなどをしており、会社の多くは価値を生み出す経済体ではなく、月30万円の給与という名の年金を配る社会福祉団体と化している。それを銀行や政府、行政が必死になって支えているという壮大な虚構である。

 それなのになぜ多くの人は、理不尽な上司や非合理な業務を我慢しているのか?なぜ政府は雇用が大事だと言い続けるのだろうか。

 イギリスの経済学者であるケインズ的な経済における労働・雇用効果を信奉しているからだろうか。

 当然、違う。理由は「アイデンティティ」である。

 出世や給料、売上といった従来の指標に専念していれば「生きる意味」を失わずに済む。生活コストは下がり、全国の空き家率が14%という時代において、私たちはもはや生存が保障されていることは知っているはずだ。

 だが虚構の中で自分のアイデンティティを確立してしまった人は、その虚構を直視しようとしない。その虚構に気がついているのが一部の若者たちだ。

 ただ、こうした虚構が長く続くわけもなく、経済システムが抱えている余剰が縮小されるようになれば、別にAIが入ってこようとこまいと社会は人が余り、街中は失業者で溢れる。そのとき、マスコミは政府を叩くだろうが、古典的な労働の意味(=生産)に立ってみれば、失業率が高いということはそれだけ国が豊かであるということだ。

 むしろ失業率は〝労働解放率〟と言い換えるべきだろう。

 そのような時代になれば、私たちは人生の目的を「生存」から「創造」へと変えなければならない。

 ただ、それはパラダイムシフトが必要とされることなので容易ではないだろう。マインドの底まで染み込んだ労働者根性を徹底的に洗い流す必要がある。

 ではどうやったら人生の意味を「生存」から「創造」へと転換できるかと言ったら、一つの方法はニートとして1-2年、名実ともに生産を放棄する期間を設けることだと思っている。

 最初は慣れないだろう。ニート初心者がせいぜいできるのは単純な暇つぶしである。つまり、2ちゃんねるや仮想通貨取引、漫画喫茶などである。

 だがそれらの世界に身を置いていると、そのうち禁断症状が出てくる。どうしても社会復帰したくなる。食えないからではない。生きる意味を見出せないからだ。

 辛いかもしれないが、この期間を耐えながら、従来の社会の指標ではなく、自分だけの指標を設計しなければならない。最初は単純なものでいい。ナイキプラスでジョギングの記録をし、クックパッドのマイフォルダ機能で作ったレシピを増やし続け、農園を作り野菜を育て、収穫を記録すること。グーグルマップを使って自分が旅した場所に星マークをつけていくこと。

 小さな記録が小さな達成感を生み、成長を促す。少しずつ大きくて社会的な目標が生まれ、「じゃあ、人に貢献してみよう」と思えるようになる。貢献をお金に変換するということができるようになる。それが新しい時代の仕事の方法である。

 それを続けていれば、仕事と仕事を組み合わせてさらに大きな価値を生み出すシステムを創り始めるだろう。それがビジネス創造である。そして「仕事は遊び。ビジネスは価値と信用を創造するゲームにすぎない」と悟るときがきたら、ようやくパラダイムシフトが完了した証である。

 正直なところ、私は2020年頃までは遊んで寝て暮らせばいいと思っている。

 なぜなら先述した通り、2022年からはルールがガラッと変わるからだ。

 本章の最初に述べたように、仕事は労働から貢献へと変わる。だがそれは個人が活躍する時代とは違う。莫大に稼ぐ個人やスターなどどうでもいい。

 この原稿を書いている間に、日産・ルノー会長のカルロス・ゴーン氏が逮捕された。カリスマの凋落である。個人の時代は終わり、これからは個性の時代である。個性と個性をパズルのピースのように組み合わせる作業によって全体を構成していく。そしてそれを共同体の中で行っていく。それが仕事における変化である。

 大事なことだから再度書く。まず個人(自分)のことは忘れよ、そして個性を見出せ。そして業界を、地域を、国境を、会社組織を超えて、各々の個性(天才性)を組み合わせよ。そうすれば大きな貢献が生まれるだろう。

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山口揚平 Yohei Yamaguchi
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