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モノを作る世界から、作らない世界へ

27歳独身。彼女なし。そこそこの大学を出て、つぶしの効かない仕事をしている僕が、紳士から教わったのは、まったく聞いたこともない新しい成功法則だった――。「学び方を学べ」「才能は幻想。すべては技術だ」「必要なことはすべて調達できる」「日本を解散せよ」……、5年前に刊行され「今こそ読むべき!」と話題の書籍を特別に無料で公開。事業家・思想家の山口揚平さんが、新しい時代の新しい成功ルールを紹介します。


モノを作る世界から、作らない世界へ


「ところで、君の周りに、45歳以上の人間がいるかね?」

「はい。たくさん」

「その45歳以上と話していて、どんなところに価値観の違いを感じることがあるかね?」

「そうですね……」

「今ぱっと浮かんだ人間がいるね」

「会社の先輩です。ちょっと見栄っ張りの……」

「その人は独身だね」

「よくわかりましたね!」

「そうだなぁ。都内、通勤時間30分圏内のマンションに1人暮らし。ローンは完遂してる。車は旧型のBMWといったところかな」

「そうです」

「では、君が見たところの、その先輩の価値観を教えてくれないかね?」

「先輩は、若い頃にバブルを経験している……。モノを欲しがる……」

「というと?」

「飲みに行って、メニューを選ぶじゃないですか」

「うむ」

「その時、必ず『じゃんじゃん持って来ちゃって』って言うんです。で、いつも食べきれず残すんですよね。僕は“もったいないな〜”って思って店を出るんです」

「なるほど、目に浮かぶね」

「そんなところでしょうか……」

「君達の世代と、上の世代の違いの1つは、彼らが、more and more(多ければ多いほどいい)、と考えていることだ」

「つまり、『じゃんじゃん持って来ちゃって』ってことですね。じゃあ、僕達は……?」

less is more(物事はシンプルなほうがいい)なのではないかと、私は考えている」

「“もったいない”ですか」

「私はスウェーデンで行なわれた『2040年のユートピアを考える』という会議に出席したことがある。そこで印象に残ったのは、すでにヨーロッパでは『モノを作る』ことは悪だと考えていることだ」

「悪……」

「モノはいずれゴミになる。それは廃棄コストにつながり、最終的には、社会的損失となる。家具や家電をアジアや東欧で大量生産してタンカーで運んで売りさばくなんてことはとんでもない時代錯誤だと思っている」

「でも今現在それを行なっている国がありますよね」

「アジアなどはね」

「でも、作らなければ、いずれモノはなくなってしまいますよね」

「作らなくても、モノを調達することは可能だ。たとえば、コミュニティを利用して、必要なものをお互いに譲り合う方法」

「物々交換的な?」

「そうだ。しかもそれはグローバルレベルで行なうことができる。ネットの力を使えばね」

「“機械”を使うんですね」

「そうだ、わかってきたじゃないか。さらに、最近注目を集めている“機械”を使う方法がある。何だと思うかね?」

「最新テクノロジーってことですよね……。3Dプリンターとか?」

「ビンゴ! メーカーから直接データを送ってもらい、村に1つある3Dプリンタ工場でプリントアウトして使う。モノを大量生産して物流する必要はない」

「そんな世界が可能なんですか!」

「技術的には可能だ。モノは一か所で作って運ぶ時代じゃない」

「柔軟な発想を持てば、今すぐにでも始められること、色々ありそうですね!」

「日本でも『モノを作ることは悪だ』という価値観は、君達若者世代で浸透しつつあると私は思っている。そもそも若者はお金がないだろう」

「はい」

「しかし、それだけの理由で、若い人がシンプル思考になっているとは思わない。モノをシェアしたり、生活をシンプルにすればするほど、人間関係や自分の住んでいる周りの空気や気持ちがよくなることを直観的に知っている世代なのではないか

「シェアハウスをしている人は、結構いますね」

これは禅の精神にもつながるが、理論物理学でも実は実証されていることだよ。モノは少なく、整然としていたほうがいい。そのほうがエントロピーが少なく心が整理されるんだ」

「エントロピーって、物理学で乱雑さを示すものですよね」

「そう。静謐な空間は、量子が整っているという研究結果がある。肉体を持っている君達人間でさえ、本当はただの量子的存在だからね。うまくシンクロするんだ」

「へぇ……」

「住むなら便利な所でなく、気のよい所を選ぶといい」

「そのうち、不動産を選ぶ基準に“気”なんてのができるかもしれないですね」

「ははは、そうだね」

タテ社会からヨコ社会へ(ガンダム世代からワンピース世代へ)


「君達は、『仲間』を大事にするね」

「改めて言われるとよくわからないですが、友人は大事だと思います」

「よく“ワンピース世代”といわれるのもそのためだ。君は読んでいるかね?」

「家に全巻あります」

「さすが、10億冊売れた漫画だ」

「あなたは読んでますか?」

「忘れてしまったよ」

「好きなキャラはいますか?」

「チョッパー君が可愛いね」

「読んでるじゃないですか」

「意外かね?」

「はい」

 と、よく見ると紳士のネクタイはチョッパー柄だった。今日の話に合わせて選んだのだろうか。

「先ほど登場した40代の先輩を例に出すと、彼らは、“ガンダム世代”と呼ばれているのを知っているかい?」

「ガンダム世代?」

「鈴木貴博氏の『「ワンピース世代の反乱」、「ガンダム世代の憂鬱」』(朝日新聞出版)によるものだが、ガンダムは、モビルスーツによる戦争を背景に、人間関係の縦社会の構図を描いている。ワンピースはいわずもがな、ヨコのつながりの人間関係を描いた横社会の物語だ」

「つまり僕達がヨコ社会に住んでいる、ということですか?」

「その通り。タテ社会とヨコ社会ではパラダイムがまったく違う」

「パラダイム……」

「今は、そのタテからヨコへの大きな変化の中にある。だから皆が苦しい。“社畜”なんて言葉が出るのは、本来、ヨコ社会世代が、タテ社会に押し込められていることによるストレスから出ている言葉だと私は思っている」

「社畜……。確かにそういうシチュエーションにいる社員は若い人が多いですね。タテ社会とヨコ社会はどう違うのでしょう?」

「今の日本を見てごらん、非常に大きな変化が起こっている。それは、マイノリティとマジョリティの比率が大きく逆転する局面にあるということなんだよ」

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