日本を解散せよ! 新しい「国」の考え方
27歳独身。彼女なし。そこそこの大学を出て、つぶしの効かない仕事をしている僕が、紳士から教わったのは、まったく聞いたこともない新しい成功法則だった――。「学び方を学べ」「才能は幻想。すべては技術だ」「必要なことはすべて調達できる」「日本を解散せよ」……、5年前に刊行され「今こそ読むべき!」と話題の書籍を特別に無料で公開。事業家・思想家の山口揚平さんが、新しい時代の新しい成功ルールを紹介します。
式はつつがなく終了した。紳士と会話をしたおかげで、僕の気分は高揚し、少々お酒を飲みすぎた。二次会でも飲酒のペースは上がり僕は泥酔のままタクシーに放り込まれた。
翌朝、二日酔いの頭をなんとか起こし、テレビをつける。普段ならお昼すぎまで寝ている僕だったが、今日からは違う。紳士に出会ったことによって何かが目覚めようとしているのを感じるのだ。
日曜の朝のテレビ番組は、この1週間に起きた事件をまとめるニュース番組が多い。世界を見るにはあまりにも単純な手だが、今の僕のアンテナはビンビンだ。
しかししばらくして、僕の気持ちは暗淡たるものとなった。
テレビから流れてくる政治や事件のニュースに「希望」を見ることができなかったからだ。
僕は今、変わろうとしている。しかし、この日本がいい方向に変わらない限り、それは意味のないことじゃないのか。
せっかく火がついた僕の心は、二日酔いのまどろみも手伝い、風前の灯状態になっていた。
その時、僕のケータイが鳴った。
見慣れない電話番号。しかし僕は誰からの電話かはっきりとわかった。あの紳士だ。
「もしもし」
「おはようございます」
「その声の様子だと、昨日は飲みすぎたようだね? 昨日は披露宴だった。しかも、君自身は、自分の未来につながるような話を聞いて高揚していた。そんな時には、つい、飲みすぎるものだ」
「はい……」
「いいことだ」
「しかし、健康という面では、体に負担をかけてますし、二日酔いによる効率の低下は、貴重な時間を失っています」
「さっそく昨日、話したことが身についてきましたね。しかし『はめをはずす』というのは、体にはともかく心にはいいこと。外すときは、とことんやるといい」
「はい」
ここまで肯定されると、二日酔いさえ、よいことのような気がしてくる。
「ところで、ランチなんてどうかなと思い電話をしたのだが。きっと私の推理では……」
また紳士と話ができるのは嬉しかったので、その言葉を遮るように言った。
「ぜひ! 僕もまたお話を聞きたいと思っていたのです!」
僕は紳士と、ランチタイムより少し遅めの時間に会う約束をした。
ニュースを見て思った「この国の未来」について聞きたいことが、頭からあふれそうだった。いつの間にか二日酔いはどこかへ消え去っていた。
◆ ◆ ◆
紳士が指摘した店は、オフィス街の大通りから1本入った、小さなレストラン。
休日だというのに、店内のテーブルはほぼ埋まっていた。
「オフィス街のレストランなのに、休日にオープンしているんですね」
「私達のように、こうして休日でもビジネスの話をする人はたくさんいるということさ。休日は平日と違うテンションで落ち着いて仕事が進む。さて、君にはまだ話し足りないことが山ほどある」
「あの、その前に、今日は1つ質問があるのですが」
「どうぞ、答えられる限り答えよう」
「今朝、ニュースを見ていたのですが、政治や経済、年金や社会保障の問題、それに、震災復興や、事件など、この日本が抱える不安要素がたくさんあると思うんです。昨日、あなたのお話を聞いて、自分の未来に少し希望の光が差したと思ったのですが、僕がここにいる日本そのものに希望を見いだせない気がして」
「どうせ何をやっても無意味なのでは、と思ったわけだね?」
「はい……」
日本の未来は暗い。でも、「日本人」はどうか?
「君は日本の将来について、どう思うかね?」
「僕もそうですが、多くの人が悲観的になっていると思います。さっきは政治経済なんて偉そうなこと言いましたが、自分のサイズで考えて、年金や仕事のこと、この 先、家族を持てるのかとか…」
「まぁ、ニュースは主に問題を提示するものさ。NHKのニュースが、猫の駅長の紹介に始まり、道の駅の看板娘のドキュメント、珊瑚礁のガイドをする美人すぎるダイバーの話題で終わったら、逆にどうだい?」
「……不安ですね」
「確かに、日本の未来は暗く見える。でも“日本人”はどうかな? より自由で幸福に過ごすようになると私は思う」
「“日本”と“日本人”は違うのですか?」
「違う。つまり、君個人と日本という国(共同体)はまったく別物だ。国は壊れるかもしれないが、君は問題ない」
「国が壊れたら僕達も困るのではないですか?」
「それは、国というものについて、あまりにも他人任せだからだよ。たとえば、君の会社が明日の月曜に突然倒産していたとする」
「まぁ、あり得ない話ではないですね……」
「では、何か月か前に『会社が潰れるぞー!』とアナウンスされていたら、君はどんな行動に出る?」
「そうですね……今の僕なら、何かしら、会社が倒産しないよう動くと思います」
「では、今の状況はどうだろう。日々飛び交うニュースによって『日本が倒産するぞー!』とアナウンスされているのと同じゃないかな?」
「そ、そうですね……。でも会社と国は……」
「同じだよ。個人でも組織でも、それが国であったとしても。問題を解決できる手段は無数にあるし、そのどれも実現できる可能性を秘めている」
「では、もしあなたがこの国を救う手段があるとしたら、どんな手が考えられますか?」
「私は少々歳をとった。私が君だったら、どんな行動をとるか、そのシミュレーションを話してもいいかな?」
「僕があなたに!?」
「そうだ。若い君が、もし眼前で国が滅びようとしているのを目撃したら、どう行動するか」
「ぜひ、お聞かせ願いたい」
日本を解散する!?
「そうだなぁ。日本を解散してもう一度、新しい共同体を作り始めるだろう」
「いきなりすごいことを“僕”は考えつくのですね……」
(それはないだろう……自分)、というのが僕の本音だ。
「日本が1つの国となったのは、ここわずか100年のことにすぎない。だったら、“一度、解散して、小さな共同体をいくつも作ればよいのではないか”とね」
確かに、江戸時代の「藩」など、中央政府からある程度独立した制度もあった。そんなようなことだろうか。
「これから日本が、世界と競争していくためには国自体のブランディングが必要だ。スイスなら観光、フランスならファッションなど、ブランディングを図って生き残る国もある。しかし、今、日本全体をブランディングするのは難しいだろう。であれば、個々の地域がそれぞれにモデルを持って、ブランディングを図っていってはどうかと考えるんだ」
紳士は、僕に尋ねた。
「たとえば、君が日本全体をブランディングするとしたら、どうする?」
「難しいなぁ……“うどんの国”とかですか?」
「……君は意外なところをついてくるね。でも、日本はうどんだけじゃない。関東と関西でさえ、うどんの汁の色が全然違う。日本を1つと考えるからダメなんだ。さぁ、君ならどうする?」
「……日本を……解散して、地域ごとにブランディングをする、……ですか?」
「そう! 個々の地域がそれぞれにモデルを持って、ブランディングを図っていってはどうか! 私は、おそらく日本は5つのブロックを中心に分かれてくると思っている。東京圏・京都・瀬戸内・九州・北陸だ。」
日本解散論
「沖縄や北海道は?」
「より独立の気運を増すだろう、もともとそうだったからね。ちなみに、東北はしばらく時間がかかるだろう。私は東北の復興は、20兆円の税金を投じてすべきことではなかったと思っている」
「でも、東北の人達のために必要ですよ!」
「もちろん、人は助けなければならないが、土地は自然の再生に任せるべきだった。砂漠に水を撒く行為は国の破綻を早めただけだ。従来、東北地方は東京に依存してきた。征夷大将軍という言葉を聞いたことはあるだろう?」
「坂上田村麻呂でしたっけ……」
「そう、彼が東北地方の征服をした時から、この地方は、中央幕府に従属していた。ただし、奥州藤原家のように、独自にこの地方に居を構え、コミュニティを形成していった人達もいる。東北もそのような自主的な資本や開拓精神のある人材に任せるべきだ。政府が介入することではない。ただコンクリートで海岸沿いを固めてより景観を劣悪にするだけだからね。土建業者があぶく銭を町で使って終わりさ(笑)」
「随分手厳しい意見ですね」
「そうかな。今朝ニュースを見て少なからず、福島の復興の姿には疑問を持っているはずだ」
確かに復興のための予算は必要かもしれないが、それを何に使ったのか。「復興」というお題目で非効率なことも行なわれているかもしれない。
「他の地域の話に移ろうか。まず九州」
「そうだなぁ。アジアに近い……とか……?」
「九州は、もともと朝貢貿易の時代から、大陸(中国)との関係が強かった。これからはますます大陸との取引を強めていくだろう。東京を向くよりも上海やソウルを向いて仕事をする人も増えるかな。実際、羽田(東京)よりも距離的にそちらのほうが近いからね。続いて、四国はどうだろう」
「瀬戸内海、海の恵」
「ならば、日本のイタリアを目指そう。海の幸にワインだったら、こちらは、海の幸にポンジュースだ。アートや穏やかな海、豊かな海産資源、人々のつながりを大事にして新しい共同体をすでに作り始めている。経済よりも生活を大切にしていくだろう。うどんはパスタに、瀬戸内海は地中海になるといいだろうね(笑)」
「パスタの代わりにうどんですね!」
「同じように、北陸は北欧を目指すべきだと思う。厳しい冬がある所は、漆や包丁、和紙、眼鏡などの精密機器などの伝統産業が育ちやすい。北欧(ノルウェー・フィンランド・スウェーデン)のような、すぐれたデザインと開放的な市民主義、緻密で世界最先端の産業技術が北陸にはある」
「日本の技術の中核を担う技術工場がひしめいていますものね」
「新しく開放的なデザインを取り込んでゆけば、IKEAのような世界的な企業がこの地方から生まれてもおかしくない。それに、温泉はサウナに匹敵するし、海産物が豊かなのは北欧も同様だ」
東京は、アジアのお墨つき市場になる
「じゃあ、東京はどうでしょうか」
「東京は千葉や埼玉、神奈川を含めると、3500万人(2014年総務省)の世界最大の都市国家となる。東京の価値は、アジアのお墨つき市場となることだ」
「お墨つき?」
「東京で成功したものがアジアで受け入れられる、という免罪符をつけるのさ。AKBが成功したらJKT(ジャカルタ)も成功する」
「AKBが全米ツアーをするとか?」
「欧米への進出は難しいところでね、昔、女子十二楽坊というのがあっただろう?」
女子十二楽坊とは、中国やアジアの楽器を使って、ポップスやクラシックなど、しゃれた音楽を披露する女性ユニットだ。
「東京、つまり日本では成功した。しかし、次にロスに行ったら成功しなかった。欧米とアジアは文化が違う。東京のブランドはアジアで通用するんだ。だからまずは東京でブランドを作る。そしてそれをアジアに文化輸出する。そのような方程式を作るんだ」
「アジアは、日本をお手本にしているところがありますからね」
「しかし、最近の日本の鈍化を鋭く見抜いているアジアの人達は、日本を飛び越え、欧米などをお手本にしだしている。今こそ“TOKYO”というブランドを改めて打ち出すべきだ。金融でも製造でもない。言語化できない価値、つまり“文化”が東京の価値の中心になる。なにせミシュランの星が世界で一番多いのはパリではなく、東京だ。そしてターゲットとなるアジアの30億人の市場はあまりに大きい」
「え!? あんまり恩恵を被っている気はしないのですが……」
「東京は重層的な都市だ。これほどカオスに満ちて面白い都市は世界にない。もっと誇るべきだ」
次回へつづく
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