【ショートショート】　「金持ち鬼」

「はい、大将。ビール一杯分ね」

「ああ、マスター。こんな時間に一杯だけ飲みにくるなんて変だと思ったら、もうー」

「はい、これで」

「ちょっと大将。よしてよ、もう。花を一輪だけ買うなんて、変だと思ったのよー」

「じゃあこちらでいいかしら？」

「ちょいとお咲きさん。そういうことかよお。どうりでチーズを買うわけだ」

「これでね、チョコ一つ分」

「あ、店長。なんだよ、もうこれ。まるで鬼ごっこだねえ」

「これでどうでしょ？プチトマト代で」

「あ、駄菓子屋め。こんちくしょー。断れねえじゃねえか。レジの中に置く場所はねえのによお」

「じゃ、コーヒー一杯分」

「あちゃあ。せっかく居酒屋さんに押し付けたと思ったのに、商店街一周して帰ってきちゃったよ」

　二千円札が、ちょっとした商店街活性化になってしまった。

#爪毛の挑戦状