歴史を超えた『全史』
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』今さらながらその読書感想文である。
タイトルにもあるように、ただの歴史の本ではないな、と思っている。
いわゆる歴史学の「歴史」ってなんだろう。わたしの感覚ではおそらく、毎日ニュースに載るような話題があって(といっても大昔には新聞もネットニュースもないが)、それが1日の歴史であり、その1週間版のダイジェストがあり、1ヶ月、1年、10年、100年のダイジェスト…と引き伸ばしていったようなものが歴史で語られているものなんじゃないかな、と思う。
ところがニュースには、主要な噂話しか載らない。その中心は政治である。もっと日常のこまごまとしたものについて語ったものは民族史だとか文学史だというように、サブジャンルとして扱われる。
一方、人類がどう進化してきたか、という生物学的な視点で人類を語ることもできる。これは進化論とか人類学の話になるのだろう。
『サピエンス全史』の視点はそれらも含みつつ、もっと大きなところから本質的に、人類が歩んできた道とはいかなるものかを、本質を解き明かしている。
こういう視点はこれまであったのだろうか? 個々の話題は既存の学問で明らかにされてきたと思うが、この本の作者のような総合的な語りかたをこれまでに見たことがない。たとえば狩猟採取していた人類が、あるとき農耕をするようになる。それくらいはわかる。だがその食料安定供給革命が感染症の流行と引き換えであったなんて、歴史の先生は教えてくれなかった。
分量はあるが読みやすく、あっというまに読み終えてしまう。人類の歴史は現在までしかないから、もう続編はあるわけないなあ、寂しいなあ、と嘆いていた頃に、ユヴァル・ノア・ハラリは『ホモ・デウス』という未来のほうの話を書いてくれた。嬉しい。こういう頭のいい人は、自分ではたどり着けない世界の真相を見せてくれるので、本当にありがたい。
この手の「知的好奇心を満たしてくれる読みやすい分厚い良書」にはハンス・ロスリングの『FACTFULNESS』とか、スティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』とかがある。とくに『暴力の人類史』のほうはもう少し知られてほしいので、いずれその感想も書いてみようか。
これぐらいは知っておいたほうがいいんだろうな、ということが書かれている本であるが、そうは言っても、もう古いほうに入るんだろう。
たった今もこれ級の読むべき本を、読み逃しているかもしれないなあ。