2度目のソロキャンプ①
~こんなに自由でいいのかしら?……いいのだ!と思える時間……天空のゴロニャン状態~
また、ソロキャンプに来てしまった。それも、同じキャンプ場に。 一度気に入ると同じところに2度、3度と通ってしまう習性がある。今回もまたそれだ。 でも、前回と全く同じというわけではない。前回泊まったのはAサイトという少し高台になった電源付きのところだったのだが、 今回は展望サイトと呼ばれる180度の見晴らしが広がるキャンプ場イチとも言える絶好のポジションだ。 前の日にイベントに出かけていたことも影響して(興奮して夜中3時まで眠れなかった!)、朝家を出るのが遅くなってしまったため、 キャンプ場に着くのが予定より1時間ほど遅れてしまった。本来ならアーリーチェックインを狙っていたはずなのに……何のことだか。
気を取り直して受付へ。展望サイトについて説明を受け、もう中央と左側のサイトは先客に取られてしまっている旨、伝えられる。 仕方がない。キャンプサイトは早い者勝ちだ。
と、そこで、タオルを一切忘れてきていることに気づく。タオルはおろか、手を拭くための ハンカチ類までも、何ひとつ持っていないという……。キャンプはアルコール清拭不織布があれば事足りるとたかをくくっていたのが間違いだった。 タオル、という文字が、頭からすっかり抜け落ちていた。そこで、受付の柱に貼られていたタオルを販売しているという情報を目ざとく見つけ、 いくらなのかと聞くと300円だというので1枚購入した。まあ、キャンプ場に併設してある天然温泉の名前がプリントされてあるし、ひとつの記念 にもなるしいいか、と、自分を納得させながら。温泉は明日とっておきの温泉に入りに行く予定なので今日はスルー。
「そういえば、以前も来られましたよね」と、受付のお兄さんが顔を覚えていてくれたのがちょっと嬉しかった。 ええ! すごく良かったんで今度は展望サイトに!! と、圧強めに返事して受付を後にした。
早速、展望サイトに移動する。前回下見していたのである程度はわかっていたが、現地に立つと、やはりおおー! と思わずにはいられない。 言われていた通り、先客がいた。すでにテントを2張り張り終えようとしているところで、男性の二人組のようだった。 一瞬、ゲイのカップルか!? と思う。何しろ色違いのおそろいみたいなテントで、ガチキャンパーらしくランタンやステンレス製の食器類やら何やら、 やけに本格的なギアを揃えまくっている。しかもそれらは几帳面なほどにまっすぐ整列して並べられているのだ。 私が彼らを組み合いの方たちかもしれないと思ったのは、彼らが1台の車で一緒に来ていたからだった。そのほかの要素もありこそすれ、1台で一緒に 来るとは、かなり親密な間柄……? 『きのう何食べた?』のシロさんと賢二みたいな妄想がふっと浮かぶ。
展望サイトは、道のあるところまでは車で進入することが出来る。他のサイトと違ってテントに車を横づけさせてもらえないのは、 以前そうしていたら車のタイヤで地面を踏みつけ過ぎて草が生えなくなってしまったから、とのことだった。このことは前回受付のお兄さんから聞かされていた。
注意深く草地を踏まないように、静かに一番奥まで車を乗り入れた。いいところに停車し、早速自分の〝ギア〟の搬出にかかる。 ……〝彼ら〟の持ち物に比べれば、私のキャンプギアは、ギアと呼ぶのも恥ずかしいほどお粗末なものだ。設営1秒のポップアップテントに、LEDランタン、カセットコンロ。 ややキャンプらしいものと言えば、一応屋外用のフィールドチェアと、寝袋ぐらい。〝彼ら〟の設備に比べれば、どうしても見劣りするのは否定できない。
けれど、私はあくまで「私のソロキャン」を遂行するため胸を張った。「ボロは着てても心は錦」の精神で、心の中は「我はガチキャンパーなり」ぐらいのイメージをして、大股でのしのし歩き、 前を真っ直ぐ見すえて車とサイトの間を往復した。もう楽しみの時間は始まっている。最高純度まで、「私の時間」を楽しみ尽くすのだ。
自分のギアを運んで車とサイトを行き来する私に、〝彼ら〟の内のひとりが不意に声をかけてきた。「すみません、音楽とか大丈夫ですか?」と。先ほどからやや控えめな 音量ではあったが彼らは音楽をかけていた。そのことには気づいていたが、さほどうるさいとは感じていなかった。山下達郎は勘弁してほしい、と思っていた程度だ。 「小さい音量でかけていただいたら、大丈夫です」笑顔でそう答えた。しかし前回のAサイトでの一拍が、まるまるひとり貸し切り状態だったので、今回そうはいかないのだなと 思うとちょっと残念感はあった。しかも音楽かけるのかよー……山下達郎とかかよー……と。(ファンの方、ごめんなさい)
男性はそれっきり話しかけてくることはなかった。けれど今ちょっと接した感じでは、どうも組合の人ではないような気がする。ごく普通の、健康的な、ちょっと年のいったオジサンだ。 もちろん相手もそのようには思っただろう。しかもこちらはさほど健康的ですらない。
とかとか考えながら、さっと初心に戻る。最高純度のソロキャンプを充実させなければ。隣で音楽をかけられようが何だろうが、今日私はこの大自然を堪能する! と切り替えた。
テント設営後、しばらく床に敷いたタオルケットの上で、昼寝をした。お腹はまだすいていなかったし、夕べの睡眠不足が今頃たたってきた感じだ。運転の疲れも少しあったのだろう、 横になると途端に溶けるように体が癒やされていくのを感じた。 温度計を持って来ていたのだが、その時の気温は24℃。平地ではベストな気温に違いないが、ここ天空のキャンプ場は標高が高い。確か、600メートル以上あったのではなかろうか。 そんなわけで、空から降り注ぐ陽射しは平地の数倍強く、鋭い。設営で体を動かした分、しっかり汗をかいている。テントは片面を網戸にし、反対側の面を開いたままにした。
私はひなたぼっこ中の猫よろしく、ゴロニャンと横になって、テントを右左に吹き抜ける高地の風に吹かれていた。ああ……何と良い心地だろう……。 その内靴下を脱いで、更に自然と一体化しようと試みた。それはセンセーショナルなほど効果的だった。裸足になるということ。日常生活でも、決して行ってこなかったことだった。 その無防備な、気持ち不安げな素足の感覚を、まるで貴重な体験であるかのように深く味わう。足裏を風がするっと撫でていく時がたまらなく気持ちいいことを、なぜ今まで知らなかった のだろう。
ふと、「こんなに自由でいいのかしら?」という言葉が頭をよぎった。「いいのだ」即座に新たな言葉が上に覆い被さる。段取りや考えごとに埋め尽くされた日常から片時の間離れ、頭とココロを空っぽに リセットする為に、ここに来ているのだから。 そう自分を説得すると、途端にココロも体も楽になった。
天空のゴロニャン状態はそのまま、小一時間ほど続いた。
2度目のソロキャンプ② ~ソロキャンとお隣さん~ に続きます