愉快なオジサン図鑑 コクシムソウ
前回ヨシトメさん(仮)が歯は治るよと言った話を書いたが、それからぼくはヨシトメさんに詳しく聞くことにした。
ヨシトメさんの歯はそうやって虫歯が広がりひとつまたひとつと崩れて減っていき、今となってはまともに残っている歯は32本中12本まできていて、そのうち上下で噛み合わせのあるのはラスト1ペアになっている。
どうやって噛むのかと聞くと奥歯と歯茎の間ですりつぶしていると。もはや別の生き物じゃん。牛かなんかじゃん。
治そうと思わなかったのか聞くと一度インプラントを入れた箇所があって一生使えると聞いていたが、しばらくして折れたという。どんな負荷かけたの?
ぼくはヨシトメの生態に興味を持った。その中でひとつの名言をいただいた。
死ぬときに歯が一本残ってたら私の勝ち
この言葉はつまり歯はどうせみんな減っていくものだし、使えるもんは使う。限界まで使う。ダメになったらほかを使えばいい。
ぼくは体なんていうのはできるだけ良い状態をキープすることが大事なんだと思いこんでいたので、衝撃でパラダイムがシフトした。
ぼくは歯の痛みは寝れないようなものだと思っていたので、相当痛かったでしょうと。よく耐えられましたねと聞くと薬がありそれを塗ると患部が痺れる、そうして晩を越す。そうすると朝がきて痛みは忘れている。また痛みがきたら塗り朝がくるを繰り返すといつのまにか痛みがなくなっていると。
ヨシトメさんはそのときだけ痛みを麻痺させて誤魔化して先延ばしにし神経を殺していた。
その薬の名は「今治水」だという。今だけ治す水。その名はヨシトメさんをよく表しているように思う。