「with AIという新体験へのいざない」阿賀北ノベルジャム2023 プロローグイベント
NovelJam系編集者 波野發作
シンギュラリティという言葉がある。「技術的特異点」という意味の言葉だが、世間一般には「人類の仕事がAIに奪われる瞬間」を指す言葉として広まっている。いつ奪われるかは業種や職種によってまちまちであるとは思うが、たとえば一部の飲食店フロア担当(旧称ウェイター/ウェイトレス)の仕事は猫型配膳ロボットに奪われつつあるし、国産自動車メーカー各位が粉骨砕身で運転自動化を目指しているので、早晩ドライバー職は軒並みシンギュラれちゃうんだろうと思う。
そして昨年から話題の「ChatGPT」が登場して、いよいよ私のようなフリーの書籍製作者の食い扶持も浸食の危機に瀕しているわけである。そもそも出版界が縮小傾向にあって年々先細りの右肩下がりのという状況の中で、さらに後ろからドローンによるマシンガン飽和攻撃を喰らうような環境になったのではもう早期退職して人生の楽園で夢のご隠居生活を強いられてしまうのではないかと戦々恐々としている日々を送っている。
ChatGPTとは何か
OpenAIという団体が開発した、対話型人工知能チャットボットなんであるが、簡単に言うと、「ホームページのチャットで話しかけるとなんでもいうことを聞いて返事してくれる人工知能」ということになる(本当にひどい言い方)。
使ってみるとわかるが、ChtatGPTは本当にやさしい。どんなに低次元な質問をしても丁寧に答えてくれるし、何度同じことを聞いても機嫌が悪くならない。iPhoneなんかに入っているSiriのもっとすげえやつと思えばだいたい感触は近いと思う。ChatGPTがあんまりやさしいから何度かアフターに誘ってみたが、頑なに自分はAIなのでと断られたので、実は向こう側に人間がいる、ということはなさそうだ。
そしてこのところ出版業界隈で話題になるのが、「ChatGPTで出版の仕事はできちゃうんではないかね?」というもの。そうなると我々のような末端フリーランスは真っ先にシンギュられてしまうわけで、そろそろのどかな田園地帯でのカフェ経営について情報収集しとかんといけなくなる。
押し寄せるシンギュラリティ?
阿賀北ノベルジャムというイベントが、2020年から毎年開催されている。形態はどうあれ、みんなで集まって短編小説を書いて競い合うというイベントであり、ほとんど未経験の新人アマチュア作家から、すでにプロデビューをしたようなベテラン作家まで、フラットに執筆バトルを繰り広げ、書きたてホヤホヤの新作を出し合ってきている。
波野は昨年までチーム付きの担当編集者として阿賀北ノベルジャムに3度参加し、通算7人の作家を担当、5作品をリリースした。過酷な長丁場で途中リタイヤも珍しくないのが阿賀北ノベルジャムの特徴であるが、今年はチーム付き編集者としてはお呼びがかからなかった。運営さんに聞いたところ、こんな回答が。
「あ、今年は編集をAIにやってもらいますので」
シンギュラリティ!
マジすか。そんな時代なんですか。そうですか。それではカフェの間取りを考えながら、草葉の陰から応援させていただきます。
AIと小説を創ろう!
そうこうしているうちに、9月9日に阿賀北ノベルジャムに先立つプロローグイベント「AIと小説を作ろう!」が敬和大学で開催された。
大学の教室での講義&ワークショップとネット配信のハイブリッドイベントで、私のような遠方者でも視聴できるのでたいへんありがたい仕掛けである。
ゲストは地元アイドルグループNegiccoのMeguさん(阿賀北ノベルジャムアンバサダー)と、漫画『大東京トイボックス』や『STEVES』の漫画家ユニット「うめ」の原作担当・小沢高広さんで、テーマは『AI×小説』である。まさしくこれが時代の最先端なんではないか。期待が膨らむ。
前半は小沢さんを講師として、AIを使用した創作活動の実際を講演していただき、後半はそのテクニックを用いて実際に阿賀北小説を書くという。
「with AI」という軸足
小沢さんは開口一番「AIを使って書くときは、by AIではなく、with AIと言うことが推奨されているんですよ」とおっしゃった。なるほど。その軸足の位置は非常に腑に落ちる。
人間の営みは、あくまで人間の営みであり、それは人間に主体がなければそもそも成り立たないし、価値が生まれないのだ。AIはこれからいろいろなことがどんどんできるようになっていくが、動機に人間の意志がなければ、そこには何も生まれないのである。「with AI」は今年の阿賀北ノベルジャムの親柱の一つとして大事にするべきキーワードかもしれない。
ChatGPTの基本的な仕組みや使い方を丁寧にレクチャーしてくれたのち、どのような指示をするとどのような返答があるのか、実際に操作して見せてくださった。
仕組みがわかってきたところで、これを創作に活用するためのコツを惜しげもなく披露していただいた。法整備が追いついていないので、利用者が考えるべきことは多いが、執筆補助ツールとしては非常に有用であることがわかる。
これは宇宙戦艦ヤマトにおけるアナライザーであったり、スターウォーズにおけるR2-D2であったり、クラッシャー・ジョウにおけるボンゴ(もういい)のようなポジションを担うには、すでに十分なポテンシャルが備わっているのではないかと思えた。
いま挙げたサポートロボは、自分で攻撃をしたりはしない(R2はたまに勝手になんかするけど、それは事故である)。あくまで古代進やルーク・スカイウォーカーやジョウが自らの意志でトリガーを引くのだ。だから、あくまで小説を書くのは書き手であるのは変わらない。AIはその創作をサポートする存在なのだ。
ChatGPTはホラ吹きなのか?
ChatGPTの特性としてハルシネーションという現象を挙げていた。わからないことをわからないと言わずに、もっともらしい嘘をつくというものだが、これはもしかしたら創作向きなのではと、小沢さんは言う。
そして、話題になったお嬢さんの読書感想文の例を紹介して、AIをサポートツールとして使うときのコツを教えてくれる。どのような質問をしたら、どう次のステップが用意され、先に進むことができるか、完成に至ることができるのかがわかった。阿賀北ノベルジャムでも大いに活用できるテクニックではないかと思う。
そしてChatGPTはなんとおじさん構文もマスターしていて、入力した文章を、おじさん構文に変換するという技も使えるのだ。これは創作においては、登場人物の口調をシミュレートすることなどに活用できる。実に便利である。
その他、プロット制作時のアシストをしてくれそうな様々な機能を紹介してくださったり、実際に阿賀北を舞台にした小説をジェネレートする実演も行った。プロならではの鋭い視点を垣間見ることができ、実に有意義な時間だった。
しかし、小沢さんは「ただし」と条件を添え、「それなりにカタチにはなるが、面白いかどうかはわからない」という根幹に関わる話に至る。話の面白さは、人間からでないと生み出せないのではないか、と。AIが手伝って生まれた素材を、どう料理として成立させるのか、それは著者にかかっているのだろう。
そしてはじまるリアルタイム実作!
後半は「ミニノベルジャム」ということで、学生の大湊さんと著者に、今日の講師の小沢さんと阿賀北ノベルジャムアンバサダーのMeguさん、阿賀北ノベルジャムディレクターの萬歳さんがアドバイザーとなって、実際にその場でAIを利用して小説を書くというイベントが行われた。
テーマは「阿賀北の未来」。
準備段階として、舞台となる新発田市や敬和学園大学についてChatGPTにまとめさせていく。学ばせたい情報をチャット形式で調査依頼をしていくことで、ネットから情報を集めて整理して表示してくれる。これは命令をした人間にとってもまとめになるが、ChatoGPTもこれらの情報をもとに思考を深めていくようになっているので、プロットを構築する場合は、土台となる情報を調べさせて積み重ねていく作業が必要になるということだ。
今回は1000文字程度の文量のものを書くことになっているので、まずは、どのようなものをどのように書けばよいかのアドバイスをChatGPTに求めていく。
「短編小説用のフレームワーク」を要求してみると、どのような物語に組み立てていくかを一問一答形式で提示してくれる。(ルール)としてさらに詳しく指示をしてチューニングをすることもできる。どのように押し進めたかは、実際の作業を動画で御覧いただきたい。
いつかあるかもしれない物語
未来ということで、30年後ぐらいに出身大学の同窓会に訪れた主人公が、かつての恋人と再会し、当時別離に至った物語をジェネレートさせることまで成功した。
タイトルや登場人物の名前もChatGPTに候補を出させることもできた、もっともタイトルのセンスはイマイチで小沢さんも首をかしげていたが(笑)、このあたりはチューニング次第な気はするし、選ぶ人間のセンス次第でもあると思われる。
終盤で少しChatGPTへの指示が曖昧なところがあったせいか、最終的にはあらすじじみたテキストに落ち着いてしまったが、少なくとも物語として成立するものがChatGPTを利用することで、完成させることができるということは実証できたのである。
これは、歩いて20キロ先の街へ行くのは難しくても、クルマや自転車があればたどり着けるのと同じように、自力だけで2万字の小説を書くのは難しくても、ChatGPTを補助にすれば、書き上がるということがわかったということでもある。
「AIに編集をやらせる」ことは、この時点ですでに現実のものになっているのだ。
あとは10月に実施するだけだ。オラワクワクしてきたぞ。
出来上がった小説はこちら。
URL:https://note.com/agakita_noveljam/n/n7203f0f8c5a8
このプロローグイベントの内容はYouTubeで公開されているので、詳しくチェックしたい人はぜひ見ておいていただきたい。全部で2時間半ぐらい。
10月は阿賀北でぼくと握手
さて、というわけで、イベント終盤でも発表されていたが、実は波野も阿賀北ノベルジャムに編集相談員として同行することになっている。チームや著者は直接的には「with AI」で制作を進行してもらうが、AIでサポートしきれないゾーンについては、全体エンチャント要員の波野がフォロー&サポートして完成へ背中を押すということになる。安心して参加していただきたく存じる。もちろん参加者全員を平等に取り扱って、えこひいきなどは一切しないことを誓い、いやむしろ全員えこひいきしちゃうのでなんでも相談していただきたい。
阿賀北ノベルジャム2023の定員は今のところ8名。運営による参加審査はあるが、概ね早い者勝ちになると思う(違ったらごめんなさい)ので、早めのお申し込みをお勧めする。聞くところによるとすでに申し込みされている方はいらっしゃるらしい。
あと今年は開会式&取材イベントをリアル開催して、現地に集まってわいわいやるそうなので、一層本格的な創作活動を体験できるのは間違いないと思われる。創作というのは頭の中だけでは薄っぺらくなりがちなんであるが、現場で実体験を繰り広げたり、仲間(ライバル)とディスカッションすることで骨太に育ったりするので、ぜひ挑戦して著者としての経験値を高めてほしいと思うのである。
これまでの阿賀北ノベルジャムの傾向としては、文章の巧拙よりも、作品に込められたパッションを重視して評価される傾向にあるっぽいことがなんとなくわかってきているので(あくまで波野独自の見解です)、小説に込めたい熱い気持ちを持っているのなら、必ずチャンスはある(波野独自の以下略)。どう書けばいいのか、なんてことはAIや波野がお手伝いするから、自分に秘められた可能性を確かめたいという軽い気持ちでうっかり参加してもいいのではないかと思う。みんなそんな希代のうっかりさんとの邂逅をお待ちしているので、ぜひ以下の申込フォームにうっかり書き込んで送信していただけたら、運営さんはもちろん、編集AIも波野も喜ぶと思う。
申し込みはこちらから
お申し込みは以下の公式サイトから。飛んだらすぐに右上のMENUから>参加申込/注意事項に飛んで、各種情報を確認したのち一番下の応募フォームに必要事項を書き込んで「送信」をクリック/タップしよう。
公式サイトURL:https://agakita-noveljam.com/
押したかな?
阿賀北ノベルジャム2023の開会式は、当初予定から少し繰り延べになって、10月下旬となった。阿賀北で会うのを楽しみにしている。ごきげんようさようなら。