あいつのこと 青ブラ文学部御中
我が家の猫の額ほどの庭には、ただ一つだけ鉢植えがある。毎年春先に桔梗の種を蒔き育てているが、何故かなかなか鑑賞するまでには至らない。花を付けないのだ。
一方、この額の実際の持ち主はというと、野生の雰囲気を醸しつつ、我が物顔で我が家に出入りしている。茶色のキジトラだが、このところちょっとデブっていて、見ようによってはうり坊のぬいぐるみのようで、かわいく見えなくもない。
特に飼っているという訳ではないが、毎度の食事を与え、ドラという名前まで付けてやっている。
そうは言ったが、所詮は野生児である。食事の時こそ驚くような猫なで声で愛嬌を振りまくのだが、食事を終えた途端に人違いだったかのように不機嫌な顔になる。
まあ、その辺の計算のなさが、やつのかわいいところではあるのだが。
そのドラが先日、事故で亡くなった。ちょうど桔梗の芽が出た時期で、水やりの大壺に八分目の水を入れておいた、その中で溺れて死んでしまった。壺ではなく、洗い桶のようなものにしておけばよかったと悔やんだが、後の祭りである。
一日有休をとって、丁重に供養して葬ってやったから、化けて出るようなことはないだろう。
ところがである。今年は桔梗が見事に紫色の花を咲かせたのである。その清楚な美しさといったら、一日中連れ回したいほどなのだ。なんなら抱えて寝てもいい。
思うに、これまではドラのやつが蕾を喰うなりしていたに違いない。あいつ、ああ見えていっちょ前に嫉妬でもしていたのだろうか。
お陰で花が咲く度に、あいつのことを思い出しそうだ。なんならあいつの墓前に、桔梗の造花でも挿しておいてやろう。
いつまでも悲しいままでいいのだと
枯れることない造られた花
リコット
了 本文751字
リコットさま
御歌を使わせていただきました。
ありがとうございます。
山根さま
今回も参加いたします。
よろしくお願いいたします。