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夜からの手紙 毎週ショートショートnote



夜からの手紙   【410字

しらけた朝のラブレターをこなごなに破り捨てた。歯が浮く言葉をどれだけ連ねても相手には一文字も届くまい。
思い女(びと)はほんの目と鼻の先にいながら、はるか彼方に霞んでいる。あの女(ひと)が書いた誰かに宛てた文を読み、声を聞いて過ごす日々は虚しい喜びに満ちている。

今日もあなたの暗い部屋を見上げる。留守なのか、夢を見ているのかはわからない。
ディンプルキーを差し込んで左に捻ると夢の扉が開く。冷えた硬い鉄の階段を一つひとつ踏みしめて上がっていく。
幸いあなたはデエビゴの寝息を立てていた。どんな夢を見ているのか、そっとあなたの美しい肢体を撫でる。
あなたはこの手の先に誰を思っているだろう。

受信機の電源を入れると、私と彼女の吐息が入り混じってハウリングする。なんて美しいハーモニーだろう。なんて美しい共鳴だろう。

昨日の夜が終わるころ、あなたにおやすみと告げ、私の眠りに就く。
あなたに早く気づいてほしい。ここにあなたを一番思っている男がいることを。
     了

*デエビゴ:睡眠薬


たらはかにさま
よろしくお願いいたします


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