白いシーツ #シロクマ文芸部
走らない刑事の私に何が求められているのか、私はよく理解しているつもりだ。そもそもキャリアの私に走ることなど必要ない。いつか思いもよらない事件を解決する私に誰しもが驚くことになるだろう。
非番の朝、公園のベンチで寛いでいると、白髪混じりの男性が横に座ってきた。そして口を開いた。
「シーツに包んで捨てるものって、なんだろうね」
視線はこちらを向いていない。独り言だろうか。
「どう思いますか」とこちらに向けたその顔には、無精髭はあるものの、身なりはきちんとしている。
「大事なものでしょうか」
「大事なものを捨てるかね?」
「では大事だったものでしょうか」
「大事だったものが、急に大事じゃなくなるってどういうことだと思うね」
ちらちらとこちらを見やる目には知性が見て取れる。
「急にいらなくなる大事だったものですか。そんなものって・・・」
「ちなみに、お引越しというわけじゃないよ」
「死体、でしょうか」
「そうなるよね。私もそういう結論に辿り着いた。問題はその大きさだが、ペットとは思えない大きさだ。大型犬ならあり得るが、うちのマンションは大型犬NGだ。大きな犬の鳴き声は聞いたことがない。かといって大人ほどの大きさはない」
「では子ども?ですか」
「そうなるよね。私は突飛なことを考えているようで自信が持てないんだ。どこに捨てたか、場所もわかる。私はどうすべきだろう。君、私の願いを聞いてもらえないだろうか」
いよいよ私の出番がやってきたのかもしれない。
「もちろん私も同行する。報酬は作業時間1時間につき1万円でどうだろう」
お金を渡されて、ホームセンターでスコップを買い、駐車場にやって来た車の助手席に乗り込んだ。
「前金で渡しておくよ」と、2万円を渡された。
車を降りて10分ほど。男性はスマホを見ながら位置を確かめている。GPSをそのシーツに紛れ込ませたのだと男性は言った。
その場所には確かに掘り返した跡がある。柔らかい土はすぐに掘ることができた。
白いシーツが現れ、丁寧に土を取り除き、ほぼ1mほどの物体を地表に持ち上げた。
「思った通りだ。女の子のようだ」
男性が後ろに退き、私はそれを覗き込んだ。
「警察に通報・・・」
頭が砕けるほどの衝撃があり、私は昏倒した。
男性は私をシーツで丁寧に包むと、私が掘った穴に落とし、それから女の子を私の上に載せた。
「悪いね。この子を守ってやってくれ」という声が聞こえたような気がする。
994字
小牧部長さま
今回もよろしくお願いいたします。