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濃い古墳 毎週ショートショートnote


わたしのおはかのまえで


遺跡調査員   【410字】

 たとえばうちの近くにある天皇の杜てんのうのもり古墳は、ちょっとした大きさの前方後円墳なんだ。当初は天皇陵だと思われていたが、調査の結果地方豪族のものだとわかった。


 いいんだよ。もう地名のようなもんだから。今や自由に見学できるラフな古墳さ。こうして予想が覆されることもある。そこに面白味があるんだ。これは天皇陵だという予測がかなり濃い古墳だったんだけどね。だから天皇の杜なんて名称で呼ばれていた。


 石室はしっかりした造りだったよ。真夏の調査だったんだが、ひんやりとしていて独特の臭いがしていた。君も知っての通り音もよく響く。だけどな、ここはちょっと違っていた。一歩踏み出す度にワーンという音のような声のようなものが響いてね。背中を冷たいものが伝ったのを覚えている。


 そんな幽霊なんてのは出てこないよ。埋葬されていたのは子どもだった。きっと豪族の後継者がそれで尽きてしまったんだろうな。その子が今の世をうるさいって嘆くんだよ。その彼ももうじき四十歳になる。
     了

*天皇の杜古墳は京都市西京区御陵に実在しますが、本編とは一切関係ありません


なかないでください
そこにわたしはいません


たらはかにさま
よろしくお願いいたします




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