夏の残り火 ネコミミ村祭りスピンオフ企画
残 照 【579字】
熱波の絶えぬこの頃。暦の如何に拘わらず、ここは真夏の底に埋まっている。
そんな中に一筋の秋がある。点Aの私と、そして点B。この線は秋を持っている。
点Bは時に虫の声、時に傘から滴る雨、ふとした陽射しの緩み(太陽だって完璧ではなく、私のように寿命を持つ身)、鳥に忘れられた空蝉、日陰の水たまり、俯いた向日葵、ちぎれ雲、水鳥の夏羽とさまざま。
盛大な花火大会は既に絵日記として定着し、私の手の中の線香花火が最後の一閃、今まさに地に落ちようとしている。
硝煙は彼(か)の人の匂い。
浜辺で彼の人とやった花火。最後に線香花火に火を灯した時、弾け飛ぶ火花は闇の中の願いごとのように美しかった。
それなのに彼の人は言った。
「はかないね」
私は言った。
「はかなくなんかないよ。あんなに綺麗だったじゃん」
「こんなに短いのはイヤだよ。もっと長く輝いていたい」
それなのに彼の人は呆気なく彼の地へ行ってしまった。夏の中の秋の線の上だった。
線香花火に火を灯すと、その線の上の彼の人が見える。きっとここから線はどんどん太くなり、やがて紅葉にまで火を灯し、それさえ燃やし尽くしてしまう。
悲しい秋を迎えるのは私の務めなのでしょうか。西の空を焦がしている間に、どうか私に手を伸べて、彼の地へ引っ張ってください。
彼の人とならば、私は穏やかな秋を迎えられる。線香花火の短い命を、私は美しく観たいのです。
了
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