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木の実と葉  シロクマ文芸部


回顧とは

竹ゾリ   【1126字】

《木の実と葉を正しい組み合わせで結びなさい》

いったいいつ、どこで出された問題だったのだろう。木の実はドングリだった。問題文に描かれたドングリも葉もとても印象深かった。私はウバメガシだけはわかったが、シイはたぶんという程度だし、まん丸なものはクヌギなのかアラカシなのか判断できなかった。

小学生のころはよく山で遊んだ。夢中になったのは、むき出しの赤土の山肌を竹のソリで滑り下りるというもの。単純な遊びだったが、無事に下まで滑り降りるのは難しく、半日やっても一度も達成できないこともあった。
半分に割った竹の上に両足を並べて滑るので、ソリというよりもスノボなのだが、みんなそれをソリと呼んでいた。上級生には10本のソリをストックしている猛者もいた。
ソリには工夫を凝らした。どこに足を置くかを考えて竹の節を見極め切り出したし、底にあたる部分にも微妙な調整を加えた。そして前を炙って曲げなければならなかったが、それは炭焼きのおじさんに頼んだ。
そんなこともまた楽しかった。

ある時、私と悠人は竹を求めて山に入った。しかし私は切り株を踏み抜いて足に怪我を負い、そこから一人で山を下りた。悠人はさらに山の奥に入って行った。悠人にはもう余分の竹はなかったからだ。その大きな後ろ姿を今でもよく覚えている。
悠人はその夜帰らなかった。
大勢が探しに出たが見つからなかった。
炭焼きのおじさんたちも見かけなかったらしいし、出くわした山伏にも訊いたが手がかりはなかった。麓の工事現場の人たちも見かけなかったと言った。
僕にもわからなかった。

中学生になってから夏休みに炭焼きのアルバイトをした。学業に未来を見出せなかった私は、何か手に職をと考えていた。とは言っても、人の髪を切るほどの器用さもセンスもない。器を作ったり、絵を描くのも苦手だ。そこで人手不足だという炭焼きをしてみようと思い立ったのだった。

私がどうしてウバメガシの設問に自信を持って答えられたのかと言うと、備長炭の材料だからだ。備長炭にはウバメガシの木が用いられる。それを高温で焼き締め、炭素以外の不純物を全て焼き尽くす。そして冷ましてからさらにもう一度火に当てる。こうすることで金属のように固く美しい炭ができる。
結局私は、中学を卒業すると炭焼きになった。汗だくになって働く毎日が楽しかった。炭焼き窯の出入り口は唯ひとつ、みなが息を合わせてそこから木を入れ、火を入れ、炭を出す。毎日がそんなことの繰り返しだった。

そうして一年が経った。窯が冷めるのを待つ間に、私は炭焼き小屋の裏に回ってみた。熱を避けて反り返った木々の間に、こんもりと土が盛られ、そこに一本の古竹が立ててあった。
それは私がかつて遊んだ竹ゾリによく合いそうな竹だった。
     了


懐古と後悔である


小牧部長さま
よろしくお願いいたします


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