不眠症浮袋 毎週ショートショートnote
夢か現か 【410字】
脳が揺れている。そうとしか思えない。あまりにも長い不眠は悪循環の輪を回し、ますます睡眠に届かなくなった。
いつしか私を乗せたベッドは大海に漕ぎ出でて、目印も目的もなく漂っていた。思えば単純な因果だ。
薄く目を開けるとベッドの端で何かが見え隠れしていた。音もない透明な煙のようだったそれは、やがて濁った緑の波となり、どこからかやってくる正しい音を観測したインディケータのように規則正しく揺れていた。
私は咄嗟に上半身を起こした。四方は大海原。島も船も何の影もなかった。
「これは夢なんだろ?」私は私に納得させたかった。
手を浸してみればいい。私がほしいのは脳が揺れる理由だが、それには届かずとも試してみる価値はある。
緑の波に手を翳すと、不眠の滔々たる海は私の手を濡らした。
「そんなはずないじゃないか」
私は枕を抱き寄せた。これが海ならばもうじき溺れる。
もはや藁にも等しい不眠症浮袋としての枕は、いかにも頼りなく私の腕の中でひしゃげた。
了
たらはかにさま
よろしくお願いいたします