サイズ (t)
落とした本がきっかけで親しくなった女性がいる。
彼女とは文学の趣味も映画の趣向も掌を重ねるようによく合っている。
近くの宝石店に勤めているという彼女は「お昼はいつもこの店なの」と目尻を下げた。
しがない物書きの私だが、それからは編集者との打ち合わせも、ランチを組み込んでこの店を利用している。お陰で彼女とは毎日顔を合わせるようになった。食事は美味いし、文句はない。
話せない打ち合わせの時でも、彼女とは目でそっと挨拶を交わした。
しばらくそんなささやかな交流を続けていたが、ある時3日続けて彼女は来なかった。
その翌日、意を決して彼女の店を訪れ、小さいダイヤの付いた指輪を注文した。
「よくご一緒の女性の方にですか?」
「いえ、あれは仕事の、編集者の女性です」
「てっきり彼女はその・・・。ではこの指輪は」
「これは、そうだな。できたら君の薬指のサイズに合わせてもらえるかな」
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