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いちょうのころ 毎週ショートショートnote

銀杏のころ 【410字】
銀杏が色づくと迫る思いがある。
病を得た友人は臥せっていたと聞く。病状が悪化してからは顔を見ていない。院外から病気のタネを持ち込まれるのがイヤなのか、面会は家族に限られるらしい。いつも周りに人がいた彼には相応しくない処遇だ。
秋も深まった青い空が美しい日だった。バス停で見上げると真っ黄色の銀杏の葉が私を目掛けて落ちてきた。それは私を透過して路面に落ちた。
私がその後、彼のことを聞いたのは葬儀の席だった。あまりにも長い無音の時を経て、いきなり葬儀の案内が届いた。
爽やかな秋の日だった。
生前はイケスカナイ奴だった友人。死んでしまえば、もうそれに惑わされることもない。悩まされることもない。
また会いたいか?いや、もう会いたくない。
それでも友人の死はいたたまれなさを私に演出する。彼は私に会いたがっているのかもしれない。私をネタにして、また周りの笑いを得たいのだ。
あのバス停で見上げた銀杏は、きっと彼のそんな誘惑銀杏だったに違いない。
了

たらはかにさま
よろしくお願いいたします。