星が降る シロクマ文芸部
星になったひと 【963字】
星が降るのは終末の合図だということは周知の事実だった。もう10年以上前のアナウンスだったが、それを思い出さない者はいないだろう。
あの時は終末の時はどうする、ああするなどという会話がまるで他人事のようにあちこちで飛び交っていた。
当時の私には愛しい人がいた。例によって例の如く、最後の日は一緒にいようと約束したけれど、彼女はその前に一人で逝ってしまった。流行り病で臨終にも埋葬にも立ち会うことができなかった。私はあの時、一緒に死んだのかもしれない。いったい私はあれから何をしただろう。一度でも笑っただろうか。
思い出の中に生きるのは楽しかったと言っていい。部屋に満ちた思い出を一つひとつ手に取って、彼女の笑顔を描き、仕草を思った。私はそこでだけ笑っていただろうか。いや、笑えてはいなかった。失った苦痛は思い出で塗り潰すことなどできなかった。
もしかするとこの日を私は待ち望んでいたのかもしれない。正々堂々とこの世から消え去れる日の到来を。だから私の心はこれほど清々しいのだ。
その時は来た。近傍の恒星の超新星爆発によって小惑星並みの星屑が地球に降り注ぐ。光の到達によってそれを知り、その欠片の到達まで10数年というのは早いのだろう。それは星々の凄まじい速度を物語っている。ひとたまりもないかもしれない。
大きな星屑の直撃ならともかく、そうではないとしても小さなものの衝突によって巻き上げられる粉塵で、空は隙間なく覆われる。おそらく地表温度は0℃以下に下がるだろうと試算されていたことが蘇る。
日照不足によりもたらされるくる病、骨粗鬆症などの病気に罹患することもあるだろう。しかしそれよりも喫緊の問題は食糧不足だ。農作物は著しく欠乏する。強奪、暴行などあらゆる犯罪が横行し、治安は壊滅的な様相となる。果たして治安維持は機能するのかどうかもわからない。
人の心が荒れること。それが一番恐ろしい終末の姿だと言っていいだろう。しかし所詮私には他人事だ。
昼、肉眼でも捉えられる数々の星は明日、明後日にはこの地に降り注ぐ。
これは、この地球を真剣に守ろうとしなかった、環境が破壊されるままに任せたことに対する星になった先祖たちの恨み節なのかもしれない。
しかし私は彷徨う星々のひとつに彼女の姿を見ている。ついに彼女が私にやってくる。
了
小牧部長さま
よろしくお願いいたします