本を書く シロクマ文芸部
本を書くあなたの大きな背中に私は触れることができなかった。
背中にあなたの大きくて真面目な眼差しが見えていて。体からほんのり立ち昇るような光は、あなたの体が昇華しているんじゃないかと思えるほど。
テーブルのコーヒーの湯気がどんどん力を失くしていく。マダラに勢いを失って、見えなくなる。それは私のよう。
コーヒーと一緒に私もテーブルに突っ伏していた。目を開けると、目の前に円い空。そこに羊がお行儀よく並んでいる。この子たちは勝手に散らばっていかない、いい子たちのよう。だからシェパードはいないんだね。
このテーブルの大きな水滴。誰の仕業だろう。たぶんコーヒーの湯気に違いない。さっきあんなことを言ったから。え?私、何を言った?私はバカになんてしてないよ。
ああ、これはプレゼントなのね。景色をひとつに集めてくれたんだ。
あなたは本を書いている。誰に依頼されたのかは知らないけれど、あなたの名前が出ることのない本を書いている。
そんなに真剣に書かなくても。と、私は思う。ヤドカリみたいなものなんだからさ。そんなこと、とても口にはできないけれど、あなたもそう思ってるんでしょ?
カタツムリのあなたは今日もゆっくり本を書く。もっと速く書ければいいのにね。ナメクジの私が言うのもなんだけど。
536字
小牧部長さま
今週もよろしくお願いいたします。