夏の夜の海(アルバムの中の人々)
夏休みの夜、友だちとよく海に行った。いつも港を囲む堤防だった。
夜の海は漆黒、恐怖でしかない。その恐怖を横に置いて、恋バナをした。
あの子を誘って、プールに出かけようなどと盛り上がり、夜明けとともにすっかり色褪せてしまう、かなり短命な花もあった。
ある年、私には彼女がいて、友だちには経験のない心情を吐露した。彼女より友だちが大切な頃だ。友は胸がいっぱいになったのか、私を掴んで恐怖へ飛び込んだ。
しかしそこは、異世界としか言いようのない場所だった。体は光の衣をまとい、泳げば一層輝きを放つ。現は夢より美しかった。
その友が、胆のう癌で亡くなったという報を受け取った。