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紅葉鳥 シロクマ文芸部

紅葉鳥に深泥池から岩倉に抜ける道で出くわした時、私たちは目が合った。
なにせ手が届くところまで接近したのだから。
それ以来、私は彼に憑りつかれている。
どの街灯よりも鋭く光っていたその眼差しは、私に紅の矢を放ったのだ。
 
乗馬クラブのある山から飛び出してきた彼は、厩舎の彼らに会った。
どうして自由に野山を駆けることができるのだ。
そう問われて、彼は食糧確保のための日々の苦労を語った。自由なんてあってないようなもの。日々、食べるのがやっとなのだから。

こうも問われた。それでも自由にどこにでも行けるのは素晴らしい。
それはそうだろう。なにせ馬たちは生まれてこの方、自由を得たことなどただの一度もないのだから。
彼は答えた。自由、自由というけれど、ある時は崖から転落し、ある時は沼にはまる。雨が降れば濡れそぼり、雪が降れば凍える寒さに耐えなければならない。
 
とぼとぼと山に帰っていく彼の哀しみにくれた後ろ姿を見て、馬たちはさぞかし胸がすいたことだろう。
 
彼は山を抜け、崖を下った。
そこに現れたのが目を見開いた私だ。彼はこの時ほど、自分の境遇を、自由の過酷さを呪ったことはないだろう。

今、この美しい夕陽を彼も見ているだろうか。
             500字


小牧部長さま
今週もよろしくお願いいたします。


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