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異形(いぎょう)
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異形(いぎょう) 【787字】
川端に白い酔芙蓉の花が咲いている。その白い花に白い蝶が遊んでいる。
白い蝶に誘われるままに、僕は乾いた石の橋を渡った。
少し坂になった凸凹の未舗装の道の側にはすべての面がトタンでできた箱ような家がいくつも並び、みな同じ時を経たように錆びていた。
人の気配はない。
ここには住めない。直観的にそう思わせるのは、きっと開口部らしきものが見当たらないからなのだろう。
蝶が立ち止まった。その青いドアを押し開き、扉を潜る。
玄関に座っている男には左腕がなかった。まだ肩から青い血が滴っていた。
「恐れることはないよ」
白い蝶はそう言ったが、僕はちっとも怯えてなんかいない。
廊下に座っている男には両方の眼球がなく、やはり頬に青い筋が垂れていた。
「怖くないから」
「彼はいったい何をしたんだ?」
「おい、自分で言いな」
白い蝶が言ったが、男は身動きさえしなかった。
廊下の突き当たりを左へ曲がり振り向くと、閉めた覚えのない真っ赤な玄関のドアが閉まっていた。
曲がった先の廊下の両側には人が並んでいた。蝶はその真ん中を優雅に飛ぶ。花園を散策でもしているように。僕はそれに従った。
「ここの人たちは何をしたんだ?」
「こいつらは極悪人さ」
ゆがみ、ひずみ、いびつな生き物、もう人とは呼べない生物。異形。
「どうして彼らはここにいるんだ?」
「ここがこいつらの家だからさ」
「ちゃんとスーツ着ている人もいるじゃないか」
「そいつはどっかの大きな会社の課長さんらしい」
「これはどこまで続いてるんだ?」
目を上げると三面鏡を覗くが如く人の群れが続いている。
「こいつらが途切れるまでさ」
「これだけの人がいったい何を」
「自分で自分を殺した極悪人さ。これからこいつらの話を聞いてやる」
呆気にとられて、もう訊ねる気さえなくなった。
最初に見た如何にも拷問されたような2人とは違い、ここに並んだ人たちはただ打ち捨てられ、放置された人形のように思えた。
つづく
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ニンジャスレイヤーさま
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