第1話「頭頂部の危機、気づきの瞬間」
僕の名前はカセキ。年齢は43歳、都内のIT企業で働くサラリーマンだ。日々の通勤は電車で、仕事終わりのビールや週末の日本酒が唯一の楽しみだ。家に帰ると、YouTubeをぼんやり眺めながら、あっという間に夜が更けてしまう。独身で一人暮らし、家事は苦手だし友達も少ない。何の変哲もない生活。
しかし、それが突然変わった。
ある日、朝の支度中、ふと洗面所の鏡に目をやると、見慣れた自分の頭に違和感を覚えた。前髪の生え際はまだ大丈夫だが、頭頂部……そのすぐ後ろ辺りが、なんだか薄くなっているように見える。さらに、つむじのあたりも頭皮が透けて見える。そんなこと、今まで気にしたことなんてなかったのに。
「え、これって、もしかして…?」
慌てて鏡に顔を近づけ、頭を傾けながら、いろんな角度で確認してみた。けど、どう見ても髪が少なくなっている。鏡の光が照らすたび、頭皮がはっきり見える部分が、まるで自分に向かって「やあ」と手を振っているようだった。冷や汗がじわっと出てきた。これはまさか…世に言う「薄毛」ってやつじゃないか?
この事実に気づいてしまってから、僕の頭の中は一気に混乱した。頭頂部の薄毛なんて、一度気になりだしたら、もう止まらない。通勤電車の中でも、反射で窓に映る自分の後頭部が気になって仕方ない。隣に座る若い同僚がふさふさな髪でスマホをいじっているのを横目に、自分だけが急激に老け込んだような気がした。たった一つの発見が、こんなにも心をざわつかせるなんて、予想もしていなかった。
それからというもの、ネットで薄毛について調べる日々が始まった。仕事が一段落した金曜日の夜、思い切って「薄毛」についてネットで調べてみることにした。正直、薄毛のことを検索するなんて、自分のプライドが許さなかった。けれども現実は目の前にあり、放っておくわけにはいかない。検索バーに「頭頂部 薄毛 対策」と打ち込むと、信じられないほど多くの情報が次々と表示された。AGA、頭皮マッサージ、食事改善、生活習慣の見直し、サプリメント、そして育毛剤……。あまりの情報量に圧倒されてしまった。
「AGAって、なんだ?」
AGAという言葉は、薄毛の治療に関する情報でよく出てきた。しかし、具体的にどういった症状なのか、何を意味しているのかもわからない。検索を進めていくと、「男性型脱毛症」というものであり、放っておくと徐々に進行していく厄介な症状だということがわかった。そして、どうやらこのAGAという症状は、放置すると手遅れになりかねないらしい。「放置してもそのうちどうにかなるだろう」なんて甘い考えが吹き飛んだ。
さらに、AGAの治療方法について詳しく調べてみると、一般的に薬や育毛剤が使われているらしい。とくに「リアップ」という商品名が、色々なサイトで紹介されていた。薄毛の改善効果が期待できる育毛剤で、ネットの口コミでは「効果があった」「髪が少しずつ増えた」といった声も多い。しかし同時に、「全然効果がなかった」「副作用が出てしまった」というレビューもあった。リアップが僕の希望を救ってくれるかどうかはわからないが、少なくとも試す価値があるのかもしれないと、ほんの少しだけ期待が膨らんだ。
さらに検索を続けると、「リアップ」以外にも薄毛に効果があるとされる対策がたくさん見つかった。たとえば、「睡眠をしっかりとること」が重要だという情報が多かった。睡眠不足は髪の成長に悪影響を及ぼすというのだ。僕は毎晩YouTubeやアニメを遅くまで見てしまうため、寝不足は自覚がある。「これが原因かもしれないな」と思ったが、今さら生活リズムを変えるのもなかなか難しい。
他にも、「野菜を積極的に摂ること」や「水分をしっかり取ること」も大切だと知った。健康的な食生活を心がけると髪に良い影響があるらしいが、正直、僕の食生活は偏っている。コンビニ弁当やインスタント食品ばかりで、野菜なんてほとんど食べていない。野菜ジュースを飲めばいいか、と一瞬考えたが、ジュースよりも本物の野菜がいいらしい。髪のためとはいえ、そこまで頑張れるかは自信がなかった。
また、頭皮マッサージも効果があるとのことで、「血流を良くして毛根に栄養を送ることが大切」といった理屈も書かれていた。毎晩お風呂で頭皮を揉みほぐしてみるか…と考えたが、「これで本当に髪が増えるのか?」と疑心暗鬼だった。薄毛を治したい一方で、どの方法も面倒に思えて、心のどこかで諦めがよぎっていた。
そんなとき、あるサイトで「育毛は即効性がない、地道な努力が必要」という言葉を見つけた。その一文を読んで、思わずため息が漏れた。どうやら、僕の薄毛との戦いは、数週間や数か月で結果が出るものではないらしい。継続が鍵だとわかっていても、すぐに結果が見えないことにはどうしても焦りを感じてしまう。僕は心の中で「もう一度あのふさふさした髪に戻りたい」と強く願っているが、それを実現するには時間と根気が必要だ。
調べていく中で、「一体どれが本当に効くんだろう?」と迷いも生まれた。ネットには情報が溢れすぎていて、何を信じれば良いのかがわからなくなってしまう。さらに、広告やPR記事の多さにもうんざりし始めた。育毛剤もサプリも「これが最強」と謳っているが、それが事実かどうかなんて僕には判断できない。口コミを見ても、良い意見と悪い意見が入り混じっていて、結局、何が効果的なのかがわからないままだった。
そんな情報収集を続けているうちに、僕はあることに気づいた。「何も行動しないまま、悩んでいるだけでは何も変わらない」と。現状に不安を感じ、ネットで必死に情報をかき集めている自分に、少しだけ虚しさも覚えた。けれども、行動しなければ状況は悪化するだけだと自分に言い聞かせ、まずはできることから始めようと決意した。
つづく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?