ギバーテイカーの熱気球問題
すえのぶけいこさん熱筆の『ライフ2 ギバーテイカー』がWOWOWの連続ドラマW『ギバーテイカー』となって日曜午後10時から放送中。全5話で残すところあと2話! 必見とだけ言っておきましょう。
『ライフ2 ギバーテイカー』は僕がアフタヌーン編集長になる直前にすえのぶけいこさんと知り合って打ち合わせを始め、編集長になった直後に連載が始まった思い入れの強い作品です。不慣れな管理職仕事に四苦八苦していた時分、すえのぶさんとの打ち合わせが最大の楽しみでした。別フレ連載の『ライフ』で一世を風靡した少女マンガ界のど根性エース(最高の賛辞なんですが、すえのぶさんが喜んでくれるかは不明)。すえのぶさんとの打ち合わせには緻密さが必要でしたが、「神は細部に宿る」というのは本当で、最終話のネームの修正稿打ち合わせ後、すえのぶさんに啓示のような閃きが文字通り「降りてきた」ことが、打ち合わせをしていた僕らにもはっきり感じられました。樹がルオトに最後に直接語った内容、あれは啓示です。
緻密な打ち合わせと書きましたが、何について緻密かと言うと登場人物達の心情についてです。マンガの打ち合わせと言うと、次にどうなるといった展開やプロットについてマンガ家と編集者はやりとりするものと多くの方が思っているでしょう。もちろん展開やプロットについても話しますが、それだけに終始したらその打ち合わせは凡庸です。最も重要なのは、登場人物の胸の内です。彼女/彼は今何を思っているのか? この点をいかに解像度高く理解するか、これが打ち合わせのキモです。現実社会に生きる自分の家族や配偶者や恋人の気持ちだって、実のところよくわからないじゃないですか。マンガの登場人物だって同じで、生半可ではその胸の内はわかりません。まして『ライフ2 ギバーテイカー』は肉親を殺された刑事と若く幼いシリアルキラーの物語です。とことん考え緻密に検討して初めて、凄絶に生きる彼らの胸の内が少しずつ紐解かれます。この作業をひたすら繰り返した時、作者も編集者も思いもよらなかった彼らの深層心理に辿り着き、彼ら自身ですら思いもよらなかった行動やセリフを引き出すことができるのです。すなわち、啓示です。刑事ドラマだけに、ね。・・・老い先短いから50代は思いついた駄洒落はすぐに言わないとって博多華丸さんが言ってましたが全く同意見です。
さて、昨年のマスコミ取材時にすえのぶけいこさんともどもキャスト出演のお二人、中谷美紀さんと菊池風磨さんにお会いしました。そのときは僕は頂いた白箱からまだ2話までしか観れていませんでした。忙しかったんです。それを見透かしたように中谷美紀さんから「熱気球から飛び降りるシーン、観てもらえました? どうでした?」と訊かれ、頭が真っ白になりました。え!? 原作にそんなシーンないし脚本にも確かなかったけど、そんな撮影やったの!? 何それどういうこと!? もうね、すぐ自白しました。まだ2話までしか観れてませんって。中谷さんは笑い転げて「私こうやってよく人を試すんです」って仰ってました。カンベンして! そんなアドリブ演技はもったいないって!
現在すえのぶけいこさんはBE・LOVE誌上で『おちたらおわり』を大好評連載中です。タワーマンションを舞台にママ友たちが壮絶なバトルを繰り広げる、すえのぶさん版『ダイハード』です。すえのぶけいこ作品に一貫しているのは、絶体絶命の逆境にあってなお示される不撓不屈の勇気! ママじゃなくてもタワマンに住んでなくても、絶対に手に汗握る面白さを満喫できます。その証拠に、小学生の僕の娘がどハマりして『おちたらおわり』を読んでいます。どちらかと言うとキミは人質のような扱いの幼稚園の子供たちのほうが年齢的に近いのでは?と思うのですが、「ひー!こえー!」って叫びながら新刊を毎度楽しみにしています。未読の方はぜひ。