かっこいい・かわいい最強問題
3月25日(土)にアフタヌーン2023年5月号が発売となります。4月にアニメが始まる『天国大魔境』（石黒正数さん）、『スキップとローファー』（高松美咲さん）、4月にドラマが始まる『波よ聞いてくれ』（沙村広明さん）がそれぞれ特集されています。ぜひご覧ください。
さて、前回の続き。四季賞投稿作のどこを僕が注視して読むか。四季賞投稿作に限らないのですが、マンガでも映画でも何かストーリーエンタメを鑑賞してそれを分析する際、僕はその作品の登場人物がなぜかっこいいのか、あるいはかわいいのか、この点から考えます。突き詰めると、大勢のひとから好かれる、即ち”ウケる”キャラクターって、かっこいいか、かわいいか、このどちらかしかないのです。
僕が言い出したんじゃありません。名前を出すと怒るモーニングとアフタヌーンの初代編集長がそう言ったんです。新入社員の頃この話を聞いて、いやさすがにほかにもあるだろうって思いました。ところが、30年近く考えましたが、突き詰めると本当にこの２つしかないんです。
「笑える、おもしろい人がいるじゃないですか」
パッとこんな反論を思いつくでしょ？ でも、お笑い芸人で考えてみてください。M-1で優勝しようが瞬間的に人気が出ようが、ただ笑える、ただ可笑しいだけだと人気は絶対に長続きしません。笑えてかっこいい、または笑えてかわいい人だけが人気を本物にしてウケ続けるのです。「笑える」というのは、かっこよさ、かわいさを実現するためのいち手段だとも言えるでしょう。
笑える・可笑しい以外にも、キャラとしてウケそうな要素はありそうなものですが、突き詰めると必ず、かっこいい・かわいいのどちらかに収束します。キモかわいいなんて言葉がかつてありましたが、要するにかわいいってことです。
「結局ルッキズムかよ」
そう思われた方もいるでしょう。でも、それも違うのです。外見もある程度は重要です。しかしながら、かっこいいもかわいいも、内面のかっこよさ、かわいさを伴わないとすぐに見破られ、いともたやすく忘れられたり嫌われたりします。
語源に遡るとわかりやすいです。「かっこいい」は漢字だと「格好いい」ですが、これは当て字で、本来は「恰好いい」と書きます。「恰」は「あたかも」と読み、「ちょうど」といった意味。「好」は「よい」です。「恰好」は即ち、「ちょうどいい」ってこと。「かっこいい」には、理想的、さらにそこから、憧れといった意味合いがあるのです。
「かわいい」は漢字で書くと「可愛い」ですがこれも当て字で、本来は「顔映ゆし(かおはゆし)」。これ、そもそもの意味は「顔を向けていられない」「不憫」「気の毒」だったそうですが、そこにいつの間にか「手を差し伸べずにはいられない」という感情が入り込み、「愛おしむ可き」の意味が主体となって、今の「かわいい」になっていったのだとか。「かわいい」は外見のみ言う言葉ではなく、「愛すべき」「手を差し伸べたくなる」存在を指して言う言葉なわけです。
「かっこいい」は理想・憧れる存在への形容詞。「かわいい」は愛すべき存在への形容詞です。この点を理解してあげると、物語の登場人物を考える際に何が大切か、ものすごくクリアになります。
作者が「かっこいい登場人物」を描こうとする際、問われるのは作者自身の価値観そのものです。どんな人間を理想として憧れるのか、これをとことん考えて、ぎゅうっと凝縮して、描きだしてあげる。「わたしの/おれの、憧れる理想像は、これ！」と具現化してあげる。これが、かっこいいキャラクターの作り方です。
かわいいは、作者自身の好み、フェチそのものです。好みでフェチなんだから、少々変だろうがマニアックだろうが構うことはありません。恥ずかしがらず、臆さずに、堂々と「わたしの/おれの、好きでたまらないのはこれ！」と具象化してあげる。これが、かわいいキャラクターの作り方です。
どれぐらい大勢の人に共感されるかはやってみないとわかりませんが、でも正確にはっきりと具体化できたならば、共感する人がゼロってことは決してありません。「わたしも！」「おれも！」って人が絶対に現れます。
前回の話に戻すと、四季賞投稿作を読むとき、作者が抱く「かっこいい」または「かわいい」人物像ってどんななのか、これが充分に、むしろ溢れんばかりに描かれている作品を僕は高く評価します。かっこいいもかわいいも、普段通りの日常の光景の中では外見のかっこよさ、かわいさ以外なかなか見えてきません。内面のかっこよさ、かわいさは、非日常の非常事態、切羽詰まった状況でこそはっきりと現れます。隕石がぶつかる前夜、文明が崩壊して人食いの怪物が現れた世界、田舎から東京の進学高校に入学した初日に超イケメンと一緒に遅刻寸前の新入生代表、そんな非常事態の最中どんな行動をとったら最高にかっこいいですか？ どんな態度をとったら最高にかわいいでしょう？ 問われるのは、作者の価値観とフェチです。照れちゃダメ。臆することなく表出してください。余さず描ききれたら、必ず同志が現れ、ファンになってくれます。
もう一つ特徴的なことがあります。かっこいいとかわいいは、どちらか片方だけで純度100%という具合にはなかなかなりません。かっこいい80%かわいい20%といった具合。この配分のさじ加減によって、キャラクターの魅力の総量が変化します。また、時代の移り変わりによって人に好かれるブレンド加減が変化しますし、そもそもかっこいい人物像、かわいい人物像は世間の流行と価値観に大きく影響を受けます。ウケるかどうかの話ですからね、世間の波には抗えない訳です。そんな世間に向けて最高に魅力的な人物像を、理想とフェチを絶妙にブレンドさせて送り出す、これがキャラクター作りの本質です。最高に
おもしろい作業と言えるでしょう。
最後に余談。かっこいいとかわいい、それぞれ英語だと何て言うといちばんピッタリくるでしょう？ 英語が得意ではない僕だと自信のある回答はできませんが、もしかするとこうかなと。
「かっこいい」は、cool 。
「かわいい」は、cute 。
どうでしょうね？ 異論反論、ご意見をお聞かせ頂けたら嬉しいです。