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席を立ったらできるだけすぐに

午前中に大切な、なんというか、プレゼンのようなものがあり、その反動ですっかり力のぬけてしまったわたしは、随分と早めに会社をでた。夕方が始まるくらいの刻に帰るのはひさしぶりだったから、二駅前でおりてあるくことにする。途中にある中古の本屋さんがまだ営業中で、全巻セットで「めぞん一刻」を思いきって買ってしまった。ほかにも全部よみたいと思うくらい好きな作家の、まだ持っていないやつを買ったり、短編集の漫画を買ったり、とにかくありあまるくらいに買った。

すっかり重くなった荷物で喫茶店に入り、営業時間のおわる8時まで本や漫画を読む。会社を早めに抜けるときのコツは、もし定時で帰っていたら爆発事故に巻き込まれていたかもしれないと思うことだ。それと席を立ったらできるだけすぐにイヤホンをつけてワクワクする音楽を聴くこと。遠く橙を帯びてきた空を眺めながら駅まで向かう坂道に「想い出はモノクローム 色を点けてくれ〜」と口パクしていたら、「いつだってやめれるって気持ちで行けばいいのよ、あなたは」って言ってくれた先生のことをなんとなく思い出した。色々と人の目が気になったりもするけれど、「先輩にどう思われたっていいじゃないか」と吹っ切れたような気持ちになる。何より、あのまま仕事を続けていたら爆発事故に巻き込まれたかもしれないのだから、力のぬけたわたしを慰める早帰はまっとうなケンリなのである。

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