いくつか前の夏
昨日、いつもまっすぐの場所を左へ曲がるバスにのって、最寄からふたつ離れた街の図書館へと向かった。市役所めあてのおばあちゃんたちと一緒にゆられながら眺めた車窓、淡く雑味の出たポラロイドカメラみたいに陽光が大気に反射してきれいだった。耳元のラッキーオールドサンは景色と掛け合って暖かく、それでも「思い出ばかりが美しくて」なんて美しい言葉が、まどろみの中で煌めく。
そういえばいくつか前の夏、吉祥寺のレコード屋さんでながれていた音楽を、君が「好きそうだね」って言って笑ってて、わたしはレジ横に「Now Playing」と掲げられていたこのアルバムを大事に聴くようになったんだった。
心地よいメロディ。「あの懐かしい未来へ行ってみたいな」可愛くて、それでいて半透明の装丁がされた詩集の一節みたいな言葉。
いくつか前の夏、いまだってずっと懐かしいし苦しいけれど、もどりかたがわからなくなったまま随分と先へきて、こうして生活に身を委ねている、今日だって、多分、あしたもまた。