バスを待つ時間

先週、兄が結婚式をした。
去年の夏から一緒に暮らした家を出て、兄は奥さんとなる人と新居に引っ越した。
それから半年以上経過はしているので、両親も、一人暮らしの私も兄が結婚したからといって、ここ最近何も変わらなかった。

ただ、ずっと苦手だと感じていた結婚式に対して印象が変わった。
1番近くにいて、一緒に育ってきた人の結婚式は、私の中でも特別で、とても嬉しかった。

式から1週間経過して、今日もたまたま実家に寄っていたが、兄がいないのも当たり前なはずなのに、なんだか違う感じがあった。
家族から、兄1人が外れていってしまったような、置いていかれたような気がした。

今夜、実家から帰る時に、父が珍しくバス停まで送るよと言った。
恥ずかしいし、なんか悪いから「いいよ」と断ったけど、断り続けるのも悪いなと思ってバス停まで一緒に向かった。

話す話題があまりない。

金木犀みたいな香りがするね。
この香りがすると春が来たって感じるな。金木犀じゃなく、チンチョウゲな。こっちの香りのほうが甘い。

チンチョウゲって漢字はどう書いたっけ?
沈むになんだろう、手みたいな丁の字に花だな。

朧月夜だね、春だね。
朧月だと、明日は雨だな。

バス停までは近いはずなのに、まだ着かない。

あそこの車屋さんなくなったね。
中古のか?そんなのあったか?

話したいわけでもないことが口から出る。

今日は暖かいねを3回ぐらい言ってしまったし、バス停の近くにある親水公園を見て、懐かしいね、散歩したいねも2回ぐらい私は言っていた。

バス停に到着して、バスが10分遅れていることが判明した。
ベンチに座って、バスを待つ。

春で今の会社9年目になるよ。
そうか、そんなになるか。

こっち引っ越してきたほうが楽じゃないのか?会社も行きやすいんじゃないのか?
うーん。そうだねぇ。

父からは、本日4回目の、結婚は急がなくていいと言われる。

キャリアウーマンもいいんじゃないのか。

(キャリアウーマンという言葉に、ブルゾンちえみが思い浮かぶ。)

そうだね〜。

(いつか自分が家を買ったりするのかな。)

「まもなく、バスが参ります」バス停の音声案内が言った。

バスがやっとくる。

もういいよ、帰って大丈夫だよ。
いや、最後まで見送るよ。ここに立ってないとバスが停まってくれないぞ。

バスが来るって言っておきながら、遅いな。
うん、次の信号が青になったらかな。

車のライトが眩しく、急いで通り抜ける音しか聞こえてこない。

あ、あれかも。来たよ、バス。
おお、来たか。

じゃあね、また。
おう、またな。

バスの扉が閉まり、父がバス停から引き返す様子を私は確認した。

バスは動き始めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?