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言葉だけじゃなく、体験で伝える。「マグマやきいも電車」の裏話公開。

2021年3月、赤と青の光をまとった路面電車が、鹿児島の市内を走りました。

名前は「マグマやきいも電車」

鹿児島市のシンボルマーク「マグマシティ」をモチーフに、市内を回遊しながら焼き芋を食べる体験型の路面電車です。

210308_マグマやきいも電車_img02_外観

210308_マグマやきいも電車_img09_焼き芋を楽しむ様子

行政主催の有料イベントであり、かつ、有名人や有名コンテンツとのタイアップもない中で、募集人数351名に対して応募数 約2,100名(倍率6倍)、参加者アンケートではまさかの満足度100%(とても満足 96.8%、まあまあ満足 3.2%)という大好評の結果となりました。

また、PRという面でも、県内のTV局はNHKもふくめて全局が取材。ゴゴスマの生中継も入り、全国ネットで6分超えの長尺で放送されました。


このコロナ禍において、そして、鹿児島というローカルから発信するイベントとして、成功事例になったのではないかと思います。

この企画はどういう意図や考えの元につくられたのか。

そして、実現に向けて、どのような点に注力したのか。

本企画の発案から実施までディレクションした僕、アフロマンスが、イベント終了後の裏話&ネタバレ企画として解説します。


※6000字近くのボリュームのある内容になったので、オススメする人、しない人を書いておきます。

オススメする人

・企画やクリエイティブのプロセスや裏側に興味がある人
・地方創生や、ローカルで企画やPRの仕事をしている人
・面白い企画を実現したい人、企画を通したい人

オススメしない人

・イベントを何も考えずに楽しみたい人
・ただ、苦労話とか面白話を聞きたい人


言葉だけじゃなく、体験で伝える

この企画の出発点は、鹿児島市の「マグマシティ」というシンボルマークから始まりました。

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「あなたとわくわく マグマシティ」は、鹿児島市のブランドメッセージで、鹿児島市ならではの魅力や価値を凝縮した言葉です。鹿児島市民を赤い糸、市外の人々を青い糸とし、交流から新しい鹿児島市、わくわくする未来を紡いでいきたいという思いを桜島の形で表現しています。

このシンボルマークは、市とクリエイター、そして市民が協力して開発した、鹿児島市入魂のものです。

そして、PRキャラクターとして火山の妖精「マグニョン」も開発され、駅や商店街など、市内の様々な場所でポスターや広告として掲示されています。

210308_マグマやきいも電車_img18_マグニョン


「鹿児島市をわくわくする街にしていこう。」

そんな想いが詰まったメッセージであり、僕自身も非常に共感する内容です(弊社Afro&Co.のタグラインも「世の中に、もっとワクワクを。」です)

一方で、言葉だけでない、次の打ち手も必要だと思いました。

それが「体験」です。

言葉は、思考や意思をまとめる上で重要なツールですが、全てを負わせるには限界があります。

百聞は一見にしかず、もっと言えば「百見は一体験にしかず」

「俺はカッコいい」と言い続けるより、カッコいい姿を見せること。

「美味しいよ」と言い続けるより、実際に食べてもらうこと。

意思としての言葉は大切なんだけど、伝えるという意味では体験してもらうことも大切です。情報があふれていく、これからの時代はなおさら重要になります。

「人は読んだことの10%しか覚えてないが、体験したことの90%は忘れない」キッザニアを立ち上げたロペス氏の記事も参考までに貼っておきます。

そこで、鹿児島市を体験クリエイティブとして表現し、「あなたとわくわく マグマシティ」を実体化させる。僕が本企画を考えた、大きな背景です。


想いを体験クリエイティブとして実体化させる

では、どんな体験がいいのか。

ここは色んなアイディアをブレストして考えました。

例えば

マグマ神輿_img

マグマ神輿

赤と青のLEDで、マグマシティのロゴ型に光る神輿。中にはDJブースが内臓されており、音楽を鳴らしながら進みます。

ポータブル性があるので、鹿児島で開催しつつ、渋谷のおはら祭りやフェスにも出張するなど、色んな展開ができるかなと考えました。


マグマサウナ_img

マグマサウナ

桜島をモチーフにしたロゴなので、体験できる火山=サウナにしようというアイディア。こちらも赤と青のLEDで光り、火山の岩石でロウリュします。

こちらの案は諦めておらず(笑)、自分たちの手で鹿児島の屋上につくろうかなと思っています。


このように、マグマシティのブランドメッセージを「アツさ」や「わくわく感」そして、視覚的な要素までふくめて、一気通貫した体験クリエイティブとして企画を考えていきました。

そして、最終的に「マグマやきいも電車」にした理由は以下の通り。

マグマやきいも電車_img03_外観

マグマやきいも電車_img04_内観

(企画段階の外観・内観イメージ)

1、鹿児島市のレガシーである市電

鹿児島市出身の僕は、昔から市電(路面電車)と共に育ってきました。桜島があり、路面電車がある。この風景は、他所にはない、近代の鹿児島市の原風景と言えます。

計画していく中で、市電を今回のように使うのは簡単ではなく、地元のメンバーからは「他の乗り物ではダメか?」という話もありましたが、ここは強くこだわったポイントです。

また、レガシーなものにLEDの光を加えることで「未来へのわくわく感」を演出しました。


マグマやきいも電車_img05_やきいも集合

2、鹿児島の資産とトレンドの掛け算=焼き芋

「焼き芋」は、今回の体験クリエイティブのキーアイテムです。

まず、世の中のトレンドとして、焼き芋人気が急上昇していること。

そして、マグマシティのコンセプトを体現する上で、火山からつながる「アツさのある体験」にしたかったこと。

そもそも、焼き芋のベースとなるさつま芋は、鹿児島の特産品であり、全国の生産量の34.9%を鹿児島が占め、全国1位の生産量であること。

さらに、寒い時期という季節性もあり、パズルのピースがハマるように「焼き芋」は必然として企画に組み込みました。


マグマやきいも電車_img10_ソーシャルディスタンス

3、マグニョンが焼き芋っぽい

ギャグのような、意外とリアルな話。

実は最初、マグマシティというロゴと、マグニョンというキャラクター、両方をPRしたいという市の意向に、少し頭を悩ませていました。

理由は、マグマシティとマグニョンの間に、ビジュアルとしての一貫性がないからです。

名称未設定-2

両方並べて打ち出すと、弱くなってしまわないか。どちらかに絞ってPRした方がいいのではないか。

そこを解決したのが、焼き芋によるイメージのブリッジ(接続)です。冗談みたいですが、焼き芋が、マグマシティのアツさと、マグニョンのほっこりしたビジュアルをつなぐのに最適なアイテムなのです。

そして、ロゴとキャラ、両方の要素をうまく混ぜる形で「マグマシティのカラーに光る電車の中で、マグニョンと一緒にやきいもを食べる」=「マグマやきいも電車」となったのです。

210308_マグマやきいも電車_img16_キービジュアル

そう思って見ると、マグマシティとマグニョン、両方の要素がうまく溶け合ってるように感じませんか?

そのようにして、マグマやきいも電車は企画されていきました。


言わないことで、期待値を超える

ここからはイベントの体験部分のこだわりの話をします。

僕がこれまで様々なイベントをやってきて気づいたことなのですが、告知から集客、体験という流れにおいて「告知段階で情報を伝えすぎないことがポイント」ということです。

自分がやっているのはいい企画だ。それを知って欲しい。イベントであれば参加して欲しい。その気持ちが強すぎて、用意しているものを告知段階で全て出す。いや、むしろ、盛ってしまう。

その結果どうなるかというと「来たはいいけどガッカリする」「思ったほどではなかったなと残念に思って帰る」そういう結果になってしまう訳です。

偉そうに書いてますが、僕もこれまでの企画で散々やって、反省し、行き着いた考えです。

告知 < 実際の体験

これは企画の際に、非常に気を付けるべきことです。

無理だーと思うかもしれませんが、何もとんでもないものを用意する必要はありません。

気づくか気づかないか、それくらいの小ネタをたくさん散りばめるだけでも満足度は変わってきます。

例えば

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焼き芋が提供されるテーブルの上ですが、この写真の中に、告知には載せてないネタが3つ入っています。


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一つは焼き芋の袋。

今回の企画は、鹿児島の市内を電車で巡りながら、4種類の焼き芋を食べる企画になっています。

その提供方法は、コース料理のように、交通局、鹿児島中央駅、天文館、市役所前の4カ所を通過するときに、新たな焼き芋が提供されるのですが、それぞれの袋が、提供場所のモチーフになっており、さらに、4種類の袋が連結するデザインになっています。

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次にどんな絵がくるのか、わくわくする感覚。お察しの通り、ドラゴンボールの背表紙の発想です。このように並べて写真を撮ってくれる人も多かったです。


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2つ目は、オリジナルのディップソース。

焼き芋にディップソース?

これは挑戦として、オリジナルで開発しました。

鹿児島のフードコディネーター、コハシヒロミ先生と何回も試作と試食を重ねたソース。正直、びっくりするくらい美味しいです。しかも、こちらのソースは家庭でつくれるように考案されており、参加者にはレシピカードも配布されています。こちらに貼っておくので、興味ある方はぜひ作ってみてください。

マグニョンディップ_レシピカード

マグニョンディップ_レシピカード2

味わいの異なる4種類の焼き芋に、さらに2種類のディップで味変できるサプライズ企画。個人的には「焼き芋にディップする」というのを新たな焼き芋のスタイルとして鹿児島市と発信していきたいなと思っています。


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3つ目は、トレーマット。

実は、お皿をどかすと、下にデザインが入っています。しかも、何かあると思ってどかしても、内容はくだらないことしか書いてません。

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しかも、これ、何パターンも種類があるんです…笑

我ながら、なんて無駄なこだわり!

でも、そういうのがいいと思うんですよね。

ここら辺のこだわりポイントは、運行中にMCがアナウンスで触れるので、参加した方はそのときに知ることになります。

そして、結果、、トレーマットの紙を持ち帰る人が続出するという現象が起きました。

紙のトレーマットですよ?ハンバーガーチェーンに行っても、持って帰らないですよね?

僕が見た回は、乗客の方全員が持ち帰り、黒いお盆だけが残っていました。

こだわりや、仕掛け一つで、モノの価値は変わるという事例です(それにしても、あそこまで持ち帰られるのは正直、驚きました…)


他にも、車内の往復のBGMは、それ用に僕が選曲してたり

告知にはない細かな体験の設計、こだわりが満足度につながるのかなと思います。


コロナ対策をポジティブに

もう一つ、企画のこだわりとして伝えたいのは、コロナ対策について。

参加者やスタッフの検温、アルコール消毒などの基本的な対策はしっかりとやった上で、少しユニークな対策を入れました。

これは、コロナの中でも、楽しいという気持ちは大切だという、僕なりのメッセージです。(参考 #楽しいが必要だ )

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今回の車両は、本来であれば24名定員なのですが、コロナの関係で、約半分の13名定員となりました。それをそのまま実施してもいいのですが、空いた席にマグニョンのぬいぐるみを座らせることで、ソーシャルディスタンスに「マグニョンと街を巡る」というポジティブな意味合いを加えました。


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参加者には、全員にマスクをプレゼントしました。見た目の通り、マグニョンが焼き芋を食べさせているというデザインで、マスクはしなきゃいけないものというだけでなく、楽しめるアイテムという要素を加えました。


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また、焼き芋を持つことと、コロナ対策の両方の意味で、手袋もつくりました。こちらはビジュアルの通り、マグニョンが歩いているように遊べる仕様になっています。


対策一つ、グッズ一つ、一つ一つこだわることで、企画の価値や体験の満足度を高め、伝えたいメッセージを感じてもらえると思います。


最後に

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今回のタイトル「言葉だけじゃなく、体験で伝える」には、複数のメッセージを込めています。

行政や企業が、スローガンやビジョンなどを言語化することは当然大切ですが、そこで終わってはいけないということ。その次のアクションとして、実体化させること。今回はシティプロモーションの企画でしたが、プロダクトでも、サービスでも同じなんじゃないかと思います。

そして、事前の告知が、過剰な宣伝文句で終わらないように、「告知 < 実際の体験」の感覚を持ち、体験をベースに細部にこだわり、ちゃんと満足して、笑顔になってもらうこと。楽しいこと、美味しいこと、最終的な体験を大事にすること。

最後に、コロナに対して論じることも大事ですが、コロナの中でできることを考え、形にしていくこと。その中で、発見があり、前に進めるんだと思います。だからこそ、ポジティブな思考を持って欲しい。

その3つの意味を込めて、タイトルをつけました。

このnoteを読んで、鹿児島市のことやマグマやきいも電車の想いを知ってもらえると嬉しいですし、地方創生やローカルで企画をする人、このコロナ禍で、何か企画やアクションしようと動く人へ、少しでも参考や後押しになればと思っています。


最後、イベントの映像と、スタッフのクレジットで終わりとさせて頂きます。

内容に共感してくれたら、noteの❤︎や、SNSで感想と共にシェアしてもらえるとアフロが喜びます。

ここまで長文を読んでいただき、ありがとうございました。

世の中に、もっとワクワクすることをつくっていきましょう。

主催:鹿児島市
企画:Afro&Co.Inc.
-Creative Director アフロマンス(中間 理一郎)
-Producer 難波 央明
制作・運営:株式会社 南日本放送
デザイン:前迫 昇吾(デザイン事務所ヤメル)
イラスト・マンガ:山崎 剛弘(Afro&Co.Inc.)
映像:
-Editor 久木山 雅彦(BRAND NEW DAYS Inc.)
-Videographer 暁 将伍
写真:
-Photographer 久木山 雅彦(BRAND NEW DAYS Inc.)
-Photographer 秋田 啓吾
-Assistant 栗野 果林
協力:焼きいもにぎわい商店 / コハシヒロミ / KagoshimaniaX
Special thanks:
シンボルマーク「マグマシティ」デザイナー 大迫 祥一郎
マグニョン原作者 齋 ジュリア愛 / グアリン ニコラス
関わってくれたみなさん、そして、参加してくれたみなさん


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