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日暮里マイタイ
行きつけの店というものに憧れていたことがある。
ちょっと大人っぽいというか、小慣れている響きが魅惑的だ。
行きつけの店とはなんだろう。
家から近いとか、その店の味に惚れ込んでいるとか、店主と仲がいいとか、話を聞いてもらうとか。
条件が揃ったところで必ずしも「行きつけ」になるとは限らなくて、これもやっぱり人と人との縁なのだろうなと思っている。その店に惹きつけられる何か。
いい歳?になったわたしにも少しだけ行きつけのお店はある。
いや、行きつけという言葉、なんだか少し偉そうかな。
馴染みのお店、お気に入りのお店、私の場合は「お世話になっているお店」というべきか。
以前からタイ料理が好きで、よくあちこちのタイ料理屋さんへ行っていた。
かなり頻繁に行っていたので、引っ越すのは良きタイ料理屋がある街と決めていた。
日暮里のマイタイは、そうしてたまたま検索して見つけた店だ。
ここで初めて食べたガパオライスに驚いた。
とても辛かったんだけれど、びっくりするほど美味しかったのだ。
そんな味、食べたことがなかった。
カウンター席のみのこの小さなタイ料理屋さんは、タイ北部イサーン地方出身のママ、アノンさんが1人で調理している。
常連さんでいつも賑わっていて、メニューには「オイシイ料理しかつくりません」と書いてある。
わたしは、この店で初めて「タイ料理」を食べたような気がした。
バンコクには何度か行ったことがあったし、日本のチェーンのタイレストランには数え切れないほど行っていたので、ガパオもタイラーメンもカオマンガイも数え切れないほど食べたことがあった。
でも、アノンママの料理は、うまく説明できないけれど、「まるで違った」のだ。
見たこともないイサーン地方の風景が広がっていくような、ダイレクトに味覚と嗅覚に訴える強さを感じた。
味って、文章で説明なんてできない。
これがアノンママのガパオだッ!
それからこのお店は、わたしの大切な「お世話になっているお店」になった。
数年の間、しょっちゅう通った。
いろんなことがあって書き切れないけれど、わたしの人生にとってとても大切な場所になった。
アノンさんは30年以上日本にいて、接客業のプロ。
驚くほどひとのことを覚えている。わたしが最初に注文したのはガパオライスということも覚えている。もちろん、わたしはあんまり辛すぎるのは得意じゃないのでチョイ辛くらいに調整して出してくれる。
(イサーン料理は辛いので、これはマイルドすぎといつもひとこと言われる(笑))
この店に通い始めてから、わたしはほとんど他のタイ料理屋に行くことがなくなった。
アノンママの料理ほど、美味しいと感じられるタイ料理がなくなってしまったのだ。
ここ数年は、日本人のパパがお店を手伝っていて、いつも2人はこの場所にいた。
心から優しいママとパパはわたしのことをとても可愛がってくれたし、山ほど話を聞いてくれたし、恋愛のこともママがいちばん知っているし(笑)、疲れた日も泣きたい日も、いつもマイタイの灯りはともり、美味しいアノンママのごはんがあった。
そんなアノンママと小林パパ、そしてパパの会社員時代の古いお友だちと一緒に、タイへ旅行にいった。
2020年1月のことだ。
1週間ほど、バンコク、そして飛行機に乗ってイサーン地方のウドンタニへ。
ママの出身の村で、ママの叔父さんのお家に泊まらせてもらった。
村では、私たちの歓迎の儀式まで。
(これについては過去のブログで詳しく書いています)
この旅から一年以上の時間が経っても、ママもパパもとっても楽しかったのか、しょっちゅうこのときの話をしていた。
そんな2人が微笑ましくて、お店にいる時間はさらに格別に幸せな気分になった。
「お世話になっているお店」だったものが、こうして人と人のご縁みたいなものにつながり、かけがえのない時間を一緒に作る。このことってなんて素晴らしいんだろうと。
アノンママと小林パパは、数年のうちにお店を人に譲り、ママの田舎のイサーン地方の村へ移住して、新しい家と畑を作るのだといつもお店で楽しそうに語っていた。
田舎に広い土地があるので、一から新しい家を建てるのだそうだ。
(ちなみに、そこにはひとみちゃんの部屋もできるとかできないとか)
わたしは、旅行後、より頻繁にお店に行くようになり、最後は週1回から2回ペースだった。
もはや、自分の両親宅の居間に帰っているような気分だった。
そんな中でも、時は少しずつ過ぎ、やがて世界はコロナ禍に見舞われた。
2人は少し予定を早めて、お店を新しい経営者に譲り、2021年5月末にマイタイを閉めることに決めた。
すでにわたしの生活の大切なリズムになっていたマイタイ。
ママとパパとおしゃべりすることで、日頃誰とも話をする機会がないわたしの心の安定にも繋がっていた。
そんなマイタイがなくなるなんて想像もしたくなかった。
4月末、仲良くしている友達2人を誘って、マイタイに来た。誰かを連れてきたのは後にも先にもこの日だけだ。
予約して数日前から仕込み始めるhor mokというお魚とココナッツのカレー。
スペシャル料理なので、お友達にも食べてもらいたくて注文した。
お友達ともママの本当に美味しい料理を分かち合い、楽しい時間を過ごし、いつもみたいにアノンママやパパとおしゃべりした。
そして、翌日から緊急事態宣言が始まり、あとひと月ほど営業する予定だったにもかかわらず、偶然にもこの日がマイタイ最後の営業日となってしまったのだ。
ママに、一度だけガパオライスの作り方を教えてもらったことがある。
わたしは、ママの動画を見ながら家で何度も作ってみたけれど、ママの味とは雲泥の差だ。
「ママの料理には愛情が入っているから」といつも言っていたアノンママ。それはね、本当だとよくわかっている。
でもどうしてもうまくいかないわ。
↓わたし作ガパオライス(わりと頑張ったで賞)
アノンママの味に近づくには、大人としての修行が必要なのかしらと思いつつ。
マイタイ閉店のお知らせLINEが来た日、ママに感謝のことばを返信した。
そうしたら、「また会えるから大丈夫よ」と返事が来た。
いつの日か、またイサーン地方のママの村に行って、ママとパパの新しいお家に泊めてもらってとびきり美味しいイサーン料理を食べたい。
その時には少しだけタイ語を覚えていこうかな。
そんな夢を持っている。
ありがとう。
アノンママ、小林パパ。
日暮里マイタイ。
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タイ旅行とラオス旅行の動画がYouTubeチャンネルにあります。全部で6本です。
観てくださいね。
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