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ストリートチルドレンに とり囲まれて街歩き
バスを降りて30秒で囲まれる
ケニアの学生時代。遠足で訪れた町でバスを降り、数時間ぶりの伸びをして、周りを見るとストリートチルドレンに囲まれていた。
日本で言うと小学校低学年から中学生のこどもが15人くらい。
完全に包囲され、一緒に来たはずの同級生はもう近くにいない。
リュックの中身が盗まれないよう前に抱えて持ち「ビビってないし敵意もないよ」の笑顔を保ち「やあ、子供達どうしたんだい?」くらいの余裕を見せつつ、俺は日本のカラテマンで、寄らば気絶させる!と威圧したかったけど、学級会で空手のポーズをしただけの僕から、オーラは出なかった。
ちょっとおしゃれな「お金ちょうだい」の言い方
お決まりの「お金ちょうだい」コール。彼らのコールは「One Bob」。どこかのボブが1ドルの顔だったらしい。日本で言う「諭吉ちょうだい」だ。
ケニアの通貨はシリング(通称シル)で、ドルではない。肖像画はジョモ・ケニヤッタか、モイさんなので、ボブでもない。しょうもない旅行者が教えたんだろう。
しかし、小学低学年みたいな子の「One Bob!」は、めちゃくちゃかわいくて、自分が人気者のボブになった気分だった。
スワヒリ語で話してみた
ケニアは英語とスワヒリ語が公用語。それに自分たちの部族語も話す。地元民同士の会話はスワヒリ語で、外国人には英語で話してくれる場合が多く、若者はスワヒリと英語をまぜたスラングを話したりする。ちなみにスワヒリ語は敬語があるので、年上や族長に使うと喜ばれる。
外人の僕に英語で話していた子供達に、スワヒリ語で「え、お金ないよ。君らがお金ちょうだいよ」と言ってみると、一瞬きょとんとして低学年チームは「外人がスワヒリ喋ったー」と大笑い。
リーダーっぽい年上の子の前に、手のひらを差し出して「ほら、One Bobちょうだい」と言うと、渋々ポケットからお金を出した。
くれるんだ。
街歩きがはじまった
リーダーのお金はごめんと断って、代わりに話しをしようと提案すると、ワッと笑顔になった。みんなの好きなこと。町のおすすめの場所。髪の毛を触らせて(まっすぐの毛が珍しいのでケニアの子供によく言われる)。と5分くらい話していると「俺たちの町を案内するよ!」と、リーダが前を行き、低学年チームが手を引いてくれた。
僕は子供たちと大通りを歩きながら町の自慢を聞いた。「こっちからは、大きい車が走ってくるんだ!」「あっちの方から時々ラクダや馬がいっぱい来るよ」「お店がここの通りに一番多いよ」何でもないことを、鼻高々話すリーダーと、嬉しそうに僕の両手をひっぱる子供達。手を繋ぐ順番は取り合いになって、僕の周りはわちゃわちゃした。なんか幸せ。
町の大人は子供が邪魔者らしく、突然殴ってくる人もいて、子供が吹っ飛ぶけど、笑顔で立ち上がって、何事もなかったように手を握りにくる。
何でもないけど、楽しいツアーは30分くらい続いた。
One Bob
一緒に歩く間、みんな本当に楽しそうだったし、僕も本当に楽しかった。
みんな大好きになった。
僕がびっくりしたり、たどたどしく聞き返したりす様子を、可笑しそうに笑ってみていた。
町の大人から邪魔者扱いされている様子に心が痛んだ。実は英語を話せない子がほとんどで唯一知っていたのが「One Bob」と少しの単語だった。
「One Bob」と言わず全財産渡したい。でも町歩きが始まってから、誰も「One Bob」とは言ってこなかった。
出発の時間
短い休憩を終えてバスの出発の時間が来た。僕はリーダーの手に500シルを握らせながらギュッと手を長く握った。彼は、こちらを見ず「わかった」と言う様子で、大きく何度もうなづいて握り返し、少し遠くを見ながら凛々しい表情をしていた。
楽しい思い出をお金で買った形にはしたくない。このお金を渡してもみんなが食べられるのは数日かもしれない。たくさん渡したら喜んだだろうか?何が正解かはわからなかったけど、話しながら町を楽しく歩いたのは本当の出来事だった。
できれば、みんなが勉強する機会に恵まれて「One Bob」以外の言葉も覚え、町を殴られずに歩き、お店のたくさんある道のどこに店を構えたり、いっぱいいるラクダの一匹を引いて生活ができたらいいのに。
悔しいような気持ちでバスに乗った。
窓の外をみると、みんなが集まって満面の笑みで手を振っていた。
バスが動き出すと、嬉しそうに「こっちから大きな車が来るんだよ」と教えてくれた道を、全速力で追いかけてくれた。何百メートルもある、すごく長い距離をずっと走りながら。
どこにでもあるかもしれないこんな出来事が、少しでも多くの人に伝わって、「One Bob」を送りたい、やさしさを一人でも多くの人に広がったらと願っている。