W杯アフリカ各国プレビュー~セネガル~
FIFAワールドカップ2022の開幕が近づいてきた。本ブログでは26名のエントリーメンバーを踏まえアフリカ勢の闘いを展望する。今回は2大会連続3度目の出場となるセネガルだ。
マネ不在のW杯。問われる総合力
11月18日、直前のリーグ戦で負傷しながらもメンバー入りを果たしたサディオ・マネ(バイエルン=GER)の欠場が発表された。前回大会、アフリカ予選、優勝を果たしたアフリカネイションズカップ2021(以下:CAN2021)と重要な試合は常にマネが母国を牽引してきた。そんな大エースがいない大舞台で求められるのは、これまでアリウ・シセ監督が培ってきたチームの総合力だ。
アフリカ屈指のタレント大国となりつつあるライオンズ(セネガル代表の愛称)。前回大会では成し得なかったベスト16入り、さらに02年大会以来のベスト8入りにとどまらずその先の景色まで、マネ抜きでも到達できることを監督・コーチ陣、選手達のベストパフォーマンスで証明したい。
システム:2つのシステムをより柔軟に使い分ける可能性も
基本布陣は4-3-3(4-5-1)で、今大会の選出メンバーを見ても中盤の選手が非常に多いことから、従来のシステムを採用する可能性が高い。イドリッサ・ゲイェ(エバートン=ENG)やパペ・マタル・サール(トッテナム=ENG)ら「ボックストゥボックス」が特徴の選手達の攻守における運動量はチームの肝の1つでもあり、それを最大限に活かせられるのは4-3-3だろう。中盤の枚数が多く背後をカバーできることからも、マネに次ぐ個人突破力を備えるイスマイラ・サール(ワトフォード=ENG)により自由を与えられる。
しかしマネが不在となれば、オフェンス面の火力不足を補うため、より攻撃的な選手を揃える4-4-2(選手の立ち位置によっては4-4-1-1)を採用する場面が増えるかもしれない。そうなるとポイントとなるのは2トップとダブルボランチの組み合わせだ。CF陣で最も器用なブライェ・ディア(サレルニターナ=ITA)の相棒となるのは、イングランド・チャンピオンシップで好調を維持しスピーディーな裏抜けで得点を重ねるイリアム・エンディアイェ(ジェーフィールド・ユナイテッド=ENG)か。ボランチは、4-3-3のインテリオールを務めるI・ゲイェとサールがそのままスライド可能だが、より守備のタスクが増加することからパテ・シス(ラージョバジェカーノ=SPA)が起用されるパターンも考えられる。
戦術:成熟度を増す組織的サッカー
①ビルドアップ
最後尾から繋ぐ意識は低くなく、ナンパリス・メンディ(レスター=ENG)がCB間に落ちたり、SB的な立ち位置に入るなりでショートパスでの組み立てを行う場面も多い。しかし詰まった際にはシンプルにCBからでも長いボールを前線に送り込み、そのこぼれ球を高い位置で拾って速攻を仕掛ける「擬似カウンター」のような形が、選手の特徴を活かした最も割りに合った戦術となるだろう。
CAN2021では、中盤を省略することで逆にギャップが生まれ、ハーフスペースに入ったマネがパスを引き出して前を向ける「二次効果」も生まれていた。抜群のキープ力で強引に時間を作れるマネがいないとなると、リスクを避けよりシンプルなビルドアップを嗜好する可能性は高い。しかし相手や仕合展開によってはこれまで用いてきた戦術の延長とも言える形であり、選手達の理解高いはずだ。
②崩し
言わずもがなマネの不在、更に言えばCAN2021優勝の原動力となりながらも怪我、所属先が決まらなずコンディションの問題で欠場となったブナ・サール(バイエルン=GER)、サリウ・シスの不在が痛い。崩しの場面でマネの個人能力に依存していた点は大きく、単独のドリブル突破のみならずSBやCFを上手く使う術にも長けていたナンバー10の代わりを立てるのはほぼ不可能だ。内に絞ったマネを追い越すS・シス、大外にひらくI・サールの空けた内側のレーンに賢く位置取るB・サールの技術や戦術眼は、セネガルの崩しの核である両WGの仕掛けに絶妙のエッセンスを加えていた。
本大会では右SBの第一人者とみられるユスフ・サバリ(レアル・ベティス=SPA)は前述のSBのタスクをこなせそうだ。一方で左SBのフォデ・バロ・トゥーレ(ミラン=ITA)とイスマエル・ヤコブス(モナコ=FRA)はより直線的なプレーを好む印象で、高い位置でのSBのタスクをどう整理するか気になるところだ。
スペースのある場面では、ショートカウンターでI・サールの推進力、ディアやI・エンディアイェのラインブレイクが猛威となるだろう。不安が残るのは引いた相手に対してどのような策を準備できるかだ。CF、WG、SBが巧みにポジションを取り、また入れ替わりながら、3列目以降の選手達の飛び出しも含めて空いた僅かなスペースを鋭く突きたい。
③守備
連動したプレッシング、持ち運びを許した場面でのリトリート共に強度が高く、堅牢な守備はセネガルの最大の強みといってもいいよい。中盤の選手はもちろん、WGのレギュラーを務める可能性の高いクレパン・ディアッタ(モナコ=FRA)も忠実に守備の仕事をこなし、CFも精力的にプレスやコース切りに汗をかく。プレスとリトリートの使い分けが巧みで、チーム全員の意識が統一された組織を崩すのは、世界の強豪といえども容易いことでは無い。
例えアタッキングサードに危険な形で侵入を許したとしても、カリドゥ・クリバリ(チェルシー=ENG)とエドゥアール・メンディ(チェルシー=ENG)という大きな壁が立ちふさがる。圧倒的な身体能力と予測能力で決定的なクロスや裏への抜け出しをカバーする前者、リーチの長さを最大限に活かして至近距離のシュートも防いでしまう後者の存在は大いに心強い。攻撃面で課題が残る中、守備の安定はこれまで以上に重要なファクターとなる。
監督:人心掌握に長けるシセはさらなる高みへ導けるか
今大会出場国で唯一長期政権を敷くセネガルだが、その理由は明白だ。前回大会出場で4大会ぶりにアフリカ予選をクリアし、大陸王者にも輝いた。画期的では無いが、再現性のある整備された戦術を浸透させ、勝負強いチークを作り上げた。
今大会はシセ体制の集大成となるW杯となるはずだったが、繰り返すマネの欠場で一気に暗雲が立ちこめた。少し状況が似ているのが、10年大会のガーナだ。彼らも大黒柱マイケル・エッシェンを怪我で欠いたが、セルビア人のミロバン・ライェバツ監督の下で組織的なチームを作り上げ初のベスト8入りを果たした。シセはこれまでのチームへの貢献を考慮しマネをメンバーリストから外さないことにしたそうだが、ライェバツも監督批判で問題となったアリ・サリー・ムンタリをチームに残すことで団結力を高めた。細かい条件は全く異なるとはいえ、何か通ずるものを感じる。
02年大会のベスト8入りを経験した同国の伝説的な元CBを、現代表選手達も慕っている様子で、グループの結束力は強い。冷静に状況を分析する一方でしっかりと選手達をかばい導いてきたシセ。「人たらし力」を存分に発揮し、20年ぶりのベスト8、さらにアフリカ勢前人未踏のベスト4の景色を見られるのは、シセとその選手達しかいない。
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