289.結婚したい人ではないけれど
年末の緊急事態もあり、会うのは慎重になっていたけど、私は出張と家族に言い、彼は外泊する良い理由が見つかったので滞りなく泊まりデートが実現した。
泊まりといっても23時間しか一緒にいられなかった。短い逢瀬の中でも色々なことがあったけど、今回のデートの思い出をnoteの記事に起こす気にならない。
今思えば楽しかったのだけど、「この人とはやっぱり結婚しないな」と思う瞬間が何度かあった。何か大きな不満があったわけではないし、一緒にいるときは楽しいけど、"ずっと一緒にいたい人"ではないかもしれないと。
私はセックスしたあとにベッドで裸のまま色んな話をするのが好きで、今回もそんな時間を取ることができた。いつもなら、そういうマッタリとした時間に「好きですよ」などと彼に言わせたりするけど、なぜか今回はそんな言葉を引き出そうという気持ちにならなかった。
別れ際、私が乗る新幹線のホームまで見送りに来てくれて、新幹線の車内に入って私のキャリーバッグを上棚に乗せてくれた。そして「じゃあ行きますね」と言って去っていく後ろ姿を見て、急に現実に引き戻されるのだった。
そっか、また離れちゃうんだよね。
次に会う予定は決まっていない。「次はいつになりますかねぇ?」と彼のほうから言われたけど、どうでしょうか?と濁した。彼は例の事件から出張を理由に泊まるのは困難な状況だし、私も夫から怪しまれない理由を見つけるのはなかなか大変だ。
去年の4月から遠距離になってなんとか1-2ヶ月に一度は会えていたけど、これからはどうなるかわからない。
彼の交通費も含めて私が全額負担しているので、夫に自分の収入や銀行口座の残高を過小申告したりしながらなんとかごまかしているけれど。
お金もかかるし、大切な人を傷つける可能性もあって、何一つ良いことなんてない。
私の中ではこれを最後に会うのをやめようかとすら密かに思っていた。
私たちは日常に戻り、彼は今日も朝から家族でお出かけをしていた。
たこ焼き屋の写真が送られてきて、私はすぐにどこの店なのかを特定してその答えを送った。
「数日前にも本場のたこ焼きを食べましたが」
「最近、本場を食べた気がするなぁ」
ほぼ同時に同じことを書いたメッセージが並んだ。
「やだ、書いてること一緒」
「一緒ですねぇ」
離れている時間が圧倒的に長くて、電話もほとんどできなくて、時々メッセージを送るだけでも、彼が自分の日常の中の甘い彩りであることは間違いない。
きっとまた数ヶ月後に悪巧みを思い付いて彼とどこかで落ち合っているのだろう。
結婚したい人ではないけど、やっぱり私には必要な人だ。