277.#307②

今回2人で会えたのは、彼が偶然私の家と同じ市内に出張で来ていたからだ。
出張自体は2日間だけど、早い時間に前日入りしてくれて、ランチタイムに思い出のお店に再訪できたのだった。

そして、翌々日に仕事が終わってからも会う約束をしていた。
せっかく近くに来たので、地元の観光地に行くのもいいかと思い、レンタカーを借りてイルミネーションを見に行った。
去年も一昨年も別の場所に見に行ってて、イルミネーションに一緒に行くのは今年で3回目。付き合ってから3回冬を迎えたということだ。

観覧車で上から灯りを見ることにした。この場所に夫と14年前に来たことがあるが、観覧車に乗るのは初めてだ。
乗る前に記念撮影をするカメラマンがいて、断るのも逆に不自然だと思って撮影に応じた。観覧車から降りたときに「記念にいかがですか?」とプリントした写真を見せられたけど、買わなかった。データならまだしも、やっぱり紙に残るものは手元に置いておけない。

「あの写真は捨てられるのか」と彼が呟いた。家族旅行であってもこの手の記念写真を買うことは滅多にないが、言われてみたら買われなかった写真は処分されるはずだ。2人が写った写真はシュレッダーにでもかけられて粉々になるのだろうか。

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パネルが光っている部屋は全て同じ料金だった。
彼が「ここにします?」と指した部屋は一昨日ラブホに行った時と同じ部屋番号だった。
「307、一昨日と同じですね」
「そうでしたっけ?」
彼は無意識にその部屋を選んでいたようだった。

2日前に3回もセックスしたのに、今日も彼は早かった。私は彼が射精してくれるととても満たされる。

ベッドサイドに「307号室」と表題が書かれたノートがあったので中を見てみた。
まともに書いている人は少なく、メモに使ったような殴り書きや謎の絵が描かれていたり。
ペンネーム、年齢、2人の関係、住まい などの記入する欄があったので、"ご関係" には「不倫」と何の捻りもなくストレートに書いた。
次にこのノートを手に取った人が「不倫か…」と思うだろう。不快感を覚える人もいるかもしれないが、せめて、どこの誰かわからないその人の記憶に残ってもらえたらいいと思った。

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彼はこのあと、単身赴任時代によく遊んでいた友人(仮名:オオサカ)に会うことになっていた。
オオサカと連絡を毎日取り合ってるらしいが、彼が異動してからは一度も会ってなかったので8ヶ月ぶりくらいの再会となる。
本当は私と一緒にいて欲しかったけど、友人も大切にしたほうがいい。

レンタカーを返したらまだ家に帰るには時間が早い。地元なので彼と会った余韻を家に帰るまでに消し去るには短すぎるし、やっぱりそのまま別れるのは惜しくて、途中まで電車に乗って彼についていくことにした。
コンビニでお酒と軽食を買って、快速のグリーン車に乗り込んだ。
「まったく。ホントに僕のこと好きなんですね」
「私が一番好きですからね」
「一番好きって?」

いつもデートのあと、帰る前にチケットやレシート等の残るようなものはすべて処分する。
「捨てるのは寂しいですね。仕方ないけど」
彼は園内案内にもう一度目を通してから、ゴミ袋に入れた。思い出は心の中にしまっておく。

電車でついて行ったおかげで一緒にいられる時間が45分くらい延びたとはいえ、あっという間にお別れの時間になった。
別れ際に、
「今まで好きになった人の中で一番僕のことが好きなんでしたっけ?」と聞かれた。
私がさっき言った意味を彼は正確に理解してない。「そうですよ」と軽く肯定しても良かったかもしれないが、
私は毎回全力で相手を好きになるから、今の彼が歴代で一番というのは嘘っぽい。
「それはどうかわからないですが。あなたを好きになった女の中で私の熱量はきっと一番ってことですよ」と答えた。
「マイさん、ストーカーだもんなぁ」と彼は笑った。

彼と駅のホームで別れて一人きりで電車で帰っている時、彼の言う通りかもしれないと思った。
彼と付き合い続けるには時間もお金も手間もかかりすぎる。
そもそも不倫だし、付き合わないほうがいいと頭ではわかっている。それでも会いたいし、好きな気持ちは何年経っても変わらない。

「今まで好きになった人の中でやっぱり一番かもねー。
何年経っても、1,000キロ離れても好きだし。」とメールを送った。


サウナアヒルも再会を果たせました



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