291.忠告

久しぶりに会った大学時代の友人が、
「どんなに好きな人でも、恋心って消えちゃうんだなと最近思ったんだよね」
とポツリと言った。
続けて、
「それでもう私は一生恋をすることもないんだと思ったら、ちょっと寂しいなって思っちゃった」
私が少し驚いた顔をすると、
「いや、旦那のことは好きだよ。でもトキメキはないよね」と、すかさず付け加えた。
ご主人のことは好きだし大事な人だけど、トキメキはないと。それに寂しさを感じているということだろう。

心から大好きな人と結婚した友人も、結婚して10年以上経って子育てもしていると、夫への気持ちは家族愛に変わっていくのだろう。それはごく自然のことだと思う。

「もう恋をしないとは限らないよ。…ほら、私もあったし」
「あ、そうだったよね…。そういえば、どうなったの?」

1年半前にその友人に会った時に不倫を打ち明けたら、
「どれだけのものを失うのかちゃんと考えて。騙されてない?今すぐやめなよ」と嗜められた。
私の過去の辛い恋愛を知っているから、今の幸せをぶち壊すようなことがあったら友人としても見ていられなかったんだと思う。
でもその言葉は常套句で私には全く響かないものだった。

1年半ぶりに会ったらまず互いの近況を伝え合うだろうが、私は自分からは不倫の話題は出さないでおこうと決めていた。

会ってから色々話して数時間が経った時に、夫への恋心について彼女が話題にしたのは、私の不倫の顛末を聞き出すキッカケにしようとしたのかもしれない。

「去年の春の異動で家族の元に帰ったから、会えなくなったんだよね」
その言葉で友人は「会えなくなったから、関係は終わった」と頭の中で補完したようだった。
家族の元に帰って遠距離になっても、まだ別れずに続いていることを黙っていれば、私は友人に嘘をついていることにはならない。

「旦那さんにもバレなくて良かったよ」とほっとした笑顔を見せる友人に「そうだね」と同調した。今もバレてないし、これからも隠し通して墓場に持っていくから。

"恋する気持ちがなくなって寂しい"というのは、なかなか危うい心境だと思う。
1年半前に私を嗜めた友人も、いつかこちらの世界に足を踏み入れてしまうのか。

でも、私はそんな彼女の背中を無責任に押したりはしない。
「そういう"隙"ができたときに、同じく隙のある人が近くにいると、恋をして関係を持ってしまうこともあるから気をつけたほうがいいよ」

不倫の先輩として、大事な友人を思って忠告した。

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