275.変わらない日々を願う

前回彼と会ってから1ヶ月経った。毎回会って別れた後は恋しくて仕方なくなってしまうけど、遠距離ゆえに簡単に会えないので、数日すると会えない現実に諦めがつく。1日何回かのメッセージのやりとりと、時々のビデオ通話だけでも充分幸せに過ごせるようになり、「会えればもっと嬉しい」というくらいの感覚になる。
でも今回はなかなか諦めがつかなかった。会いたいなぁという気持ちばかりが募ってしまう。
彼は最近仕事が忙しくて勤務時間の隙間に電話をくれることも減った。お昼休みも取れないほど忙しい様子なので仕方ないけど、本当はもう少し声を聞きたいし顔が見たい。

きっと思いが募るのは私が暇だからなのだ。
すっかり元気になったので、そろそろ仕事に復帰することにした。
仕事復帰に向けたトレーニングのために図書館で朝から過ごす日もあり、せっかく図書館で読むのだからと、買うのは憚られるような本を読んでいるが、それはそれで悶々とすることがある。例えば不倫にまつわる本を読めば、不倫中のカップルの話は基本的に"会えている"人たちが中心なので、羨ましくなってしまう。私たちのように遠距離不倫の話なんて出てこない。

ところが、数冊読み漁ったところで、『不倫の恋に苦しむ女たち(亀山早苗 著)』という本に、私たちと同じような遠距離W不倫の実例が出てきた。
概要としては、
"職場に異動してきた先輩と数年後に付き合うようになり、付き合って3年が経った頃に彼のほうが転勤になった。
飛行機で行かないといけないような遠方なので、会う時は中間地点で1泊する。頻度は半年に一度程度。
毎日のメールは欠かせない。"

その女性は「今となっては遠距離になって良かった」という。近くにずっといれば周囲の人に不倫を知られていただろうし、中間地点であれば知り合いに会う可能性はほとんどないので堂々と二人で歩ける。

近くにいればどんなに注意していても誰かに気づかれる可能性はあると思う。
社内不倫が夫にバレた友人は、慰謝料を夫に支払い不倫関係を清算する念書にサインしたにも関わらず、発覚から半年経った今も不倫を続けているが、最近はついに職場でも噂になってしまったらしい。話を聞く限りでは確かに私たちに比べるとツメが甘い行動が見受けられるが、私たちも同じ職場にいたらいずれ周囲に気づかれたに違いない。ちょっとした目線とか話し方でピンとくる勘の良い人がいたりするものだ。
それを考えれば、離れて発覚するリスクは格段に減ったので私たちも遠距離になって良かったのかもしれない。

とはいえ、遠距離での不倫は珍しいと思う。性欲を満たすためだけの不倫であれば遠距離になったら続かないだろうが、彼と離れて半年以上が経っても続いているのは、肉体関係以外の部分でもお互い必要な存在だからなのだろう。そもそもそんなに私たちは性欲は強くないし、近くにいたときよりも精神的な繋がりが強まった。
会えば性欲が爆発?していっぱいセックスするけど(笑)

仕事復帰前に2人で紅葉でも見に行きたいなと悪巧みを思いついたが、彼が仕事を休むのは難しそうで断念した。彼がいなくても一人で行くつもりだったけど、寂しさが募るだけと予想がついてしまったので行くのはやめた。

彼が「ごめんなさい。紅葉、いつか」とメールに書いていたので、「そうですね、来年ね」と書いた。
彼も「来年ね」と返してきた。

"来年"という言葉の重み・・・去年までは"来年"なんて単語を絶対に口にできなかった。それは関係が始まったときからそうだった。桜とかイルミネーションとか、季節のイベントに2人で行くたびに、これが最後なんだろうな、と思った。
でも今はもうすでに遠距離でこれ以上離れることもないからか、お互い自然に「来年」と口に出せるのだと思う。冷静に考えれば、距離の問題が解消される見込みもない、むしろずっと離れたままである可能性のほうが高いのに、逆に安定するとは不思議なものだ。

図書館で読んだ様々な不倫の本で共通するのが「W不倫は特に神経を使う」ということだった。
2年半が経ち、すっかり日常に溶け込んでいるので今になって急に夫に不倫を疑われるような行動はないとは思うが、2つの家族を巻き込んで不幸になる可能性のある危険な行為であることをよくよく認識して、油断せず改めて気をつけようと思う。
幸せな時間が続くように。
お互いのパートナーに知られないで墓場まで持っていくために。


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