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ワイヤレス給電で世界で勝てる技術を追求するスタートアップ、エイターリンクとはなにか

※本記事は池澤あやかの公式noteからの転載になります。

「次世代を牽引するようなスタートアップ」というと、海外スタートアップが注目されがちですが、世界レベルで技術的な強みを持ち、次世代のデファクトスタンダードになりうるスタートアップが日本にも存在します。

そんな企業のひとつ、世界で初めて「マイクロ波ワイヤレス給電」を実用化させた、エイターリンク株式会社。エイターリンクの技術「AirPlug®」を用いると、15m〜20m離れたところから、角度依存も少なく、双方向データ通信ができるくらいの電力をIoT機器に供給できます。

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エイターリンク社の評価ボード
奥のドアが開き、ボードが給電エリアに入ると、緑色のLEDが光る
(もちろんバッテリーは積んでいません!)

現在、大量のセンサ情報を用いたビッグデータ活用事例も増えつつありますが、従来の場合、全てのセンサに常時給電を行うケーブルを繋げる必要がありました。

ワイヤレス給電技術を用いると、離れた位置から100個以上の多数のセンサに対して同時に給電できるため、電源供給用のケーブルが不要になります。ケーブルを気にせずに、センサの設置位置を変えられるメリットもあります。

なぜ日本からこうした世界レベルの技術を持つスタートアップが生まれたのでしょうか。そもそも、マイクロ波ワイヤレス給電ってどういった技術なのでしょうか。
ワイヤレス給電が普及すると、どのような世界が実現するのでしょうか。

テック系スタートアップが集う大手町ビル構内にある、エイターリンクのオフィスにて、アンテナ技術を担当する代表取締役CTOの 田邉勇二(たなべ・ゆうじ)さん、回路技術を担当する技術統括(VPoE)の小舘直人(こだて・なおと)さんからお話を伺いました。

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左から、小舘直人さん、田邉勇二さん、筆者(池澤あやか)

(聞き手・編集: 池澤 あやか)

マイクロ波ワイヤレス給電とは?

池澤: 「マイクロ波ワイヤレス給電」は、そもそもどういう仕組みですか?

田邉さん: マイクロ波ワイヤレス給電は、電波(マイクロ波)で空中に飛ばしたエネルギーを受信して給電する技術のことを指します。

アンテナでマイクロ波のエネルギーを発信して、受電側のアンテナで受信します。
その後、電気として使うために、受信したマイクロ波を直流に変換し、定電圧化・安定化してからバッテリーに充電します。

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小舘さん: 送信と受信の原理は、Wi-FiやBluetoothのようなデータ通信とほぼ同じです。主だった違いは、ワイヤレス給電で用いるマイクロ波は、出力が時間で変化せずに一定の値のまま出力される「CW発振」であることくらいですね。

池澤: エイターリンクは、「世界で初めてのマイクロ波ワイヤレス給電」を謳っていますが、今日に至るまで、他社が追随できないのはなぜですか?

田邉さん: 他社と比べると、アンテナの信号受信効率が3倍くらい、受信回路での電力変換効率が3倍くらい、通信回路の電力消費効率が5倍くらいよいため、トータルでものすごく効率がよくなっています。

わたしが担当しているアンテナ技術では、マルチアンテナといって、受信をする際のアンテナを複数本用いることで、あらゆる角度から到来する電波もキャッチできるような設計機構にしています。特許も取得済みです。

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濃い緑の線がアンテナ部。
電波を打ち消すことなく効率よく受信できるような形状をしています。

小舘さん: わたしは技術統括と回路全般を担当しています。大学時代に100mWの低電力で動作する太陽電池回路の設計を行っていたので、もともと直流変換や低電圧化、安定化にまつわる回路のノウハウは持っていました。それがワイヤレス給電回路の改善にも大いに役立っています。

エイターリンクってどんな会社?

田邉さん: わたしは、博士取得後、スタンフォード大学でリサーチサイエンティストとして、エイダ・プーン准教授とともに、体内に埋め込んだデバイスに体外から送電する理論的な研究を行っていました。

通常の埋め込み型医療機器は、動力源としてバッテリーを積む必要がありますが、バッテリー残量や感染症対策で、8年に一度くらいの頻度で交換する必要があります。
バッテリーを積んだデバイスは手のひらくらいのサイズになってしまうため、交換の際にはカテーテルを通して切開手術をしなくてはなりません。しかし、体外から送電できれば、デバイスを米粒大サイズまで縮小でき、カテーテルを通して埋め込めるため切開手術の必要がなくなり、患者の負担が大幅に軽減されます。

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バッテリーレスで米粒大になったペースメーカー

田邉さん: この研究がとてもうまくいったので、大学発の技術を社会還元するために、エイダ氏とともに2014年にメディカルインプラントのスタートアップを立ち上げました。

メディカル分野に取り組んでみて改めて感じたのですが、メディカル分野は実用化までに時間がかかる分野です。他に商用利用できる分野はないかと模索していたときに、現在エイターリンクの共同代表をしている岩佐と出会いました。

当時岩佐は商社に勤めており、工場によく出入りしていたそうですが、機械の可動部の電源ケーブルが断線して停止する問題がよく起こっていたようです。岩佐からこうした課題解決にワイヤレス給電技術が使えるんじゃないかと提案され、一緒にプロジェクトを進めることになりました。研究助成金を得るタイミングも重なり、共同で会社も設立しました。

池澤: お話をうかがっていると、ワイヤレス給電は実用化にむけて動きはじめたばかりの分野で、研究に近いところも多いと思いますが、バーンレートを気にするスタートアップで研究活動は行えるものですか?

田邉さん: アメリカの大学では、みんな「この技術をいかに世に出して世界を変えるか」を考えながら研究しています。そのせいか、大学での研究活動がもととなったスタートアップは多いです。

スタートアップというと、お金が必要なイメージがあるかもしれませんが、わたしたちは大学の研究者に週末だけ手伝ってもらっていたので、プロトタイプづくりの段階では、あまりお金を浪費しませんでした。
プロトタイプがあったので資金調達もスムーズでしたし、外部からの資金調達以外にも、大企業と共同研究を行ったり、開発案件を受注したりして、きちんと売上を立てるようにしています。

池澤: スタートアップのなかでも「ハードウェアスタートアップはハードだ」とよく言われますが、そういう苦労はないですか?

小舘さん: そうですね。エイターリンクはハードウェアスタートアップにしてはかなり安定して運営できていると思います。
「ハードウェアスタートアップはハードだ」と言われる所以のひとつに、使っていた部品の生産中止(いわゆるEOL・ディスコン)への対応があります。
エイターリンクでは、こうしたときに回路を設計し直さなくていいように、一部の部品において半導体の設計を自社で行うように切り替えています。

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エイターリンク製の整流器半導体テストチップ

なぜ日本から生まれたのか?

池澤: 「日本だと、法律上の制限が多くて、新興分野の起業が難しい」という意見もあると思うのですが、なぜ創業の地を日本にしたんですか?

田邉さん: もちろんアメリカでの起業も考えましたが、工場やビルメンテのセンサはマニアックな分野なので、アメリカのベンチャーキャピタルからはなかなか価値を認識してもらえませんでした。
日本はものづくりやセンサの技術が世界的にみても優れているし、僕自身のルーツも日本にあるので、必然的に日本で起業することになりました。

池澤: 法律の壁はなかったですか?

田邉さん: エイターリンクとして、起業後早期に、ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)に参加し、新しい無線通信技術の運用方法の策定に携わっていました。
従来の法律に則ると、マイクロ波を出す際に煩雑な申請が必要でしたが、マイクロ波であれば誰でも使える状況にしようと、総務省に働きかけました。現在、やっとその法律が施行されることになりました(注1)。世界的に見ても、さきがけとなる法律になっています。

エイターリンクは、どういった未来を実現できるか?

小舘さん: 現在は、大手企業との実証実験を行っています。例えば、三菱地所での実証実験では、テーブルの位置をトラッキングしたり、足元の気温によってエアコンの稼働を変更できるようなアプリケーションを提案しました。
将来的には、送信機も天井のシーリングやレールから電源を取れるようなデザインに変更して、より多くの場所に設置しやすい形に変更していきたいと思っています。

池澤: バッテリーがなくなることによって何が実現できるようになりますか?

田邉さん: バッテリーがなくなると、ガジェットの筐体サイズがぐんと薄く小さくなり、安価になります。

そうすると、センサと通信モジュールをプロダクトのパッケージに搭載でき、物流管理を行ったり、ユーザーが中身を使い切ったら新しいプロダクトが自動で郵送されてくる、なんて未来も実現できます。

これは5年〜10年後の話ですが、例えば20年〜30年先の話になると、今使っているスマートフォンがウェアラブルコンタクトレンズになったり、脳の中にチップを埋め込んで、脳の情報を通信したり、視覚情報を直接映し出したりすることで、何もなくてもコミュニケーションできる世界も実現可能になるかもしれません。

小舘さん: こうした未来が到来しても、必ず動力源は必要になります。我々がそうした社会のプラットフォーマーになる計画を立てています。
ワイヤレス給電のプラットフォーマーとして、ユニコーン企業(時価総額1000億円)を超えて、へクタコーン企業(時価総額10兆円)を目指していきたいと思います。

本当に新しい分野に取り組んでいるので、Wi-Fiがない時代にWi-Fiを、Bluetoothがない時代にBluetoothを作ってるような、新しい時代を切り開いている感覚があります。EthernetがWiFiに変わったときと同じような現象が無線給電の世界でも起きると考えています。

顧客からの問い合わせが非常に多く、プロダクトマネージャー、品質管理、アンテナ・回路・組込・クラウド・IoT系のソフトウェアエンジニア、知財、とにかく全方向で人材を募集しています。

今後はアプリケーション開発やサービス提供を充実させたいので、ソフトウェアエンジニアの採用には特に力を入れたいです。一緒に未来を作ってみたい方は、気軽にカジュアル面談しましょう!

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■ エイターリンク公式LinkedIn
https://www.linkedin.com/company/aeterlink-corp

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エイターリンク株式会社 人事担当:神﨑
カジュアル面談メールアドレス:hr@aeterlink.com
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注釈

(注1)エイターリンクの働きかけによる総務省の省令緩和発表を受け、空間伝送型ワイヤレス電力伝送機器(WPT)の販売開始を決定

関連サイト

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