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ドクターフー「眼下の獣」

朗読の仲間との集まりで、何か読みたいと思って題材を探しました。クリスマスにちなんだお話にしようと思っていましたが、結局、いつかは読みたいと思っていた『オメラスから歩み去る人々』に決めました。全然クリスマスじゃないですね。このお話のことは、また改めてするとして、オメラスを読み返して思い出したのが、大好きな英国BBCのテレビシリーズ『ドクターフー』の中のひとつのエピソードでした。
「眼下の獣」というストーリー。紹介します。

29世紀、太陽フレアの影響により地球に住めなくなった人類(イギリス人のようです)は、巨大な宇宙船で宇宙を飛んでいます。
タイムマシンでやってきた主人公のドクターとエイミーは、この船がとても奇妙で、何か秘密を抱えていることに気が付き、宇宙船の動力が「スターホエール:宇宙クジラ」であることを突き止めます。船にしばりつけられ、毎日拷問を受けながら宇宙を飛ぶクジラ。

船の住民は、5年ごとにこの真実を見せられ、「記憶の消去」か「抗議」か、いずれかのボタンを押す仕組みです。そして、多くの人が、忘れ去ることを選びます。
この船を治めている女王(エリザベス10世)も、毎回記憶を消して、このシステムを守っています。もしも女王が記憶を消去せず、「退位」のボタンを押せば、クジラは自由になれますが、船は動力を失い、人々は宇宙を彷徨うことになります。

この可哀想なスターホエールは、まるでオメラスに出てくる地下室のみじめな子どもと同じ。そこに、たったひとりで犠牲になっている存在がいることを、みんなが知っているけれど、大多数の幸福のために、犠牲を払わせ続けるのです。

ドクターは、せめてクジラが苦痛を感じないように、電気ショックを与えて脳死状態にしようとします。でも、エイミーは女王に「退位」のボタンを押すように迫ります。なぜなら、エイミーはクジラの気持ちを理解したからです。
宇宙でたったひとりになってしまったスターホエール。寂しい、年老いたクジラは、泣いている子どもを放っておくことができないとても心優しい生き物でした。太陽フレアが熱くて泣いていた子どもたちを助けるためにやってきたクジラだったのです。捕まえて、しばりつけなくても、喜んで船を動かしてくれるつもりだったクジラ。拷問がなくなって、よりパワフルに、船は進みます。
足の下には、子どもたちが大好きな優しいstar whale がいる…。

ちょっと人間に都合がいいストーリーですが、それでも涙がほろりと流れるエピソードでした。『オメラス』にはなかったハッピーエンディング。やっぱりドクターフーは、素敵です。



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