映画「今さら言えない小さな秘密」は、人生にとって枷を外すことの大切さを教えてくれるコメディだった
アウトライン
主人公のラウル・タビュランは、フランスの野山に囲まれたブロバンス生まれ。
郵便配達員の父を継ぐべく、配達に欠かせない自転車の練習に励むも、なぜか彼の身体のバランスは自転車に乗ることを許さない。
そして自転車に乗れないことは、この街で生まれ育った男の子にとって、父の職業を継げないかもしれないという恥ずかしさ以上に深刻な問題を引き起こすものでもあった。
というのも、この街はツール・ド・フランスのルート通過地点で、自転車に乗ることが“男の勲章”でもあったからなのだ。
かくしてラウルは、来る日も来る日も人目を避けて練習に明け暮れるが、一向に乗れる気配はない。
そんなある日、学校の担任が「自転車で遠乗りに行こう」と言い出した。困ったラウルは仮病を使おうとするがそれも叶わず、覚悟を決めて自転車を押して後に従う。
湖を望む丘の上で「早く来い」と急かされた彼は、意を決して自転車にまたがる。
すると、斜面を急加速で下降したラウルの自転車は奇跡的にバランスを保ち、湖の岸辺で美しく一回転して水面へ吸い込まれていった。
これを見ていた旧友たちは、彼が自転車の曲乗りに挑んで成功させたものと勘違い。以降、ラウルは街の英雄となってしまう。
もちろん、自転車に乗れないことは隠し続けるものの、なんとか克服しようと自転車のことを調べ続けた結果、彼は誰よりも自転車の構造に詳しくなり、街の自転車屋を受け継ぐことになる。
そんな彼と恋に落ちたマドレーヌが自転車事故で両親を亡くしていたことから、「僕は君のためにもう二度と自転車には乗らない」と誓って結婚。
ラウルには、その秘密を抱えながらも平穏な日々が訪れたが、街へ引っ越してきた写真家のエルヴェの登場で場面は大きく展開することになる。
さて、ラウルの秘密はどうなるのか──。
見どころ
まず、冒頭の田園風景が美しい。
が、こうした説明的な描写から入る映画は冗長で「ハズレたかな〜」と思ったのもつかの間、エピソードを積み重ねていく方式で、ラウルの苦悩を外堀から埋めていく。
このあたりは「アメリ」のブレインだったギョーム・ローランらしさが感じられ、笑いもありながら、後々の布石にもなっていたことに気付かされることになったりする。
写真家エルヴェの登場は、序破急の急のためには必要だったが、それだけに難しい役どころ。
親友にならなければ、エルヴェが彼のために再び自転車に乗る気は起こさなかっただろうが、エルヴェのラウルを撮りたいという執着がもう少しあってもよかったかな。
オススメ度
オチが見えそうで、上手く最後まで引き付けているという点では、しっかりした造りの映画だと言える。
恋物語のエピソードはフランスっぽさがあって、単調にさせない効果があった。
自転車をテーマに選んだこと、それがタイトルや名前に使われていることの説明が(割とほかの描写は細かいのに)なくて、あとからパンフレットなどを読まないとわからないのは残念。
自転車が乗れないだけなのに…、という軽さでとらえてしまうと、この作品の深さが味わえないかもしれないから。
ちなみに、タビュランというのはこの地方で“自転車”を意味する。
だから、ヒトは開放されないと、しあわせにはなれないんだよね、ということかな。
公式サイト http://www.cetera.co.jp/imasaraienai/
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