17歳の迷えるマイノリティな心象を軸にアップデートしていく“家族の絆”の物語【映画「Winterboy」メモ】
2022年フランス制作の映画。
監督・脚本のクリストフ・オレノは1970年フランス・フィニステール生まれ。地元の大学で文学、さらに映画学校でも学んだあと、1995年にパリへ進出して作家デビューを果たす。2001年に最初の短編映画、翌年には長縮と次々に作品を手がけて、日本にもその名が知られるようになる。2013年にリョンの国立歌劇場で上演されたプーランク作オペラ『カルメル派修道女の対話』の演出を手がけるなど、活動の場も広げる映画作家。
主演のリュカを演じたポール・キルシェは、2001年フランス・パリ生まれ。両親とも俳優という家庭に生まれ育ち、フランスの高校にあたるリセの最終学年のときに映画の主役に抜擢され、デビュー。その後、パリのシテ大学で経済学と地理学を学ぶなか、本作のオーディションを勝ち抜いて本作の出演を決めた、超大型の新人。
「Winterboy」メモ
冒頭から沈んだ色味の映像。主人公で17歳のリュカと父親が自動車で移動する場面から始まる。2人の会話から、仲の良い親子関係ではないことと、それ以上にわだかまりがあることを匂わせる描写。
路傍の花束を追うカメラに、死の香りを感じさせるプロローグとなっている。
2週間後、父の訃報が学校の寮に届き、葬儀のために再び実家に戻るリュカ。
こうした短い、前置き的なカットのなかで、学友との同性愛的行為を織り込み、リュカの複雑な心象が単なる思春期にありがちな不安定さとは異なる問題を抱える人物のものであることが暗示される。
冒頭の父親との会話で、父親から「高校は大事」と諭されたことに反発するリュカが、葬儀の夜に退学することを家族(母と兄)に告げるが、母に止められてその思いを保留し、兄に同行してパリへ行くところから、リュカの“心の旅”が本格的にスタートすることになる。
パリの生活は、寮制の学校や田舎の家家では味わうことのできない刺激的なもので、主人公の性的指向の関係上、男性同士のセックスシーンや売買春の描写もあり、生理的に受けつけない向きには注意されたい。
とはいえ、リュカのベッドシーンは美しく、こうした表現活動によって、アンコンシャス・バイアスが変わっていくことを監督が意識していたようにも感じた。
映像表現的には、ほとんど固定カメラを用いずに画面が動いていて、それがリュカの心と連動するような効果を発輝していたように思う。
また、アップ(画角をはみ出すほどの)が多用されたことも、細かい表情による演技によって対峙する登場人物の心理的な影響を描こうとした(であろう)監督の意図を感じさせるものだったと受け取っている。
半野喜弘が担当した音楽は、この映画のテーマを理解した、抑制の効いたサウンドで、とても丁寧にストーリーに寄り添う印象をもたらしてくれていた。
さらに劇中、リュカが兄のルームメイトのリリオに送ったヴィデオでは、リュカがギターの弾き語りを披露しているのだが、これが“リオネル・ルエケを彷彿とさせるような”グッとくるものであったことも記しておきたい。
万人に勧められるエンタテインメントな作品とは言い難いが、性的なものに限らず自らの指向性を探しあぐねているような時期、またはそうしたほろ苦い体験(甘酸っぱいではない)があったという人にはきっと共感できるのではないかと思わせる、佳編だった。
Winterboy
2022年 サン・セバスティアン国際映画祭主演男優賞受賞
2023年 セザール賞 有望若手男優賞ノミネート
監督・脚本:クリストフ・オノレ『愛のあしあと』
音楽:半野喜弘『娼年』『窮鼠はチーズの夢を見る』
出演:ポール・キルシェ、ジュリエット・ビノシュ『トリコロール/青の愛』『真実』、ヴァンサン・ラコスト『アマンダと僕』、エルヴァン・ケポア・ファレ
原題:Le lycéen/2022/フランス/フランス語/2.39:1/5.1ch/122分/日本語字幕:横井和子/配給:セテラ・インターナショナル/協力:Unifrance/French Film Season in Japan 2023
www.winterboy-jp.com
1 2 / 8(金)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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