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工学的ストーリー創作入門:本で学ぶ物語の作り方『千と千尋の神隠し』編

0.前書き

ストーリーを作るという作業は、アイデアを形にし、キャラクターに命を吹き込み、テーマを織り込みながらプロットを緻密に組み立てる作業です。ここでは、スタジオジブリの名作『千と千尋の神隠し』を具体例に取り、ストーリー作りの各要素を解説します。

1.コンセプト:物語の問いを設定する

まず、物語は「アイデア」から始まりますが、それをストーリーに発展させるには、問いを設定して「コンセプト」にまで昇華させる必要があります。『千と千尋の神隠し』のコンセプトは、「もし普通の少女が異世界で自分の名前を失ったら?」という問いから始まります。この問いが、物語全体の進行を決める出発点となります。

物語を作る際の最初のステップは、単なるアイデアを「問い」にすることです。この問いが物語の中心に据えられ、その問いに対する答えが物語の進行に反映されていきます。『千と千尋の神隠し』の場合、「もし少女が異世界で名前を失ったら?」という問いがコンセプトの核心です。この問いを通じて、千尋が名前を取り戻し、自分のアイデンティティを再発見する旅が始まります。

考えるべきこと①

自分の物語で、まず「もし〜だったら?」という問いを設定してみましょう。例えば、「もし○○な世界で△△が起こったら?」といった形で、ストーリー全体の基盤となる問いを考えます。この問いが明確であればあるほど、物語の方向性が定まります。
どのような問いが物語の中心に据えられているか? その問いに対して、キャラクターがどう行動し、物語がどのように展開していくのかを意識することが大切です。

2.キャラクターの三次元:キャラに深みを持たせる方法

キャラクターはストーリーの核であり、キャラクターの行動や成長が物語を動かしていきます。『千と千尋の神隠し』の千尋は、物語を通じて大きく成長するキャラクターです。この成長を「キャラクターの三次元」という考え方で説明できます。

第一の次元:外見と行動
「第一の次元」は、キャラクターの外見や表面的な行動を描く部分です。千尋の場合、物語の序盤では、彼女は内気で泣き虫な普通の少女として描かれています。彼女の行動は異世界に戸惑い、恐怖に圧倒されて泣き叫ぶという表面的な反応です。第一の次元は、キャラクターがどのように見えるか、どんな癖や習慣を持っているかを描写する部分です。この段階では、キャラクターの表面的な特徴や行動に焦点が当てられます。千尋が最初に見せる行動は、怖がり、戸惑い、泣いてしまうという弱々しい面です。

第二の次元:内面の葛藤と動機
「第二の次元」では、キャラクターの行動の裏にある内面的な葛藤や動機を描写します。千尋の場合、彼女は両親を豚にされたという大きなショックを受け、深い不安と孤独を感じています。しかし、両親を救いたいという強い気持ちが、彼女を前に進ませる原動力となります。これは千尋の内面的な動機です。第二の次元では、キャラクターの行動の裏に隠された動機や葛藤が描かれます。例えば、千尋が働くのは、ただ生き延びるためではなく、両親を救うためという強い内面的な理由があるからです。この次元では、キャラクターがなぜその行動を取るのかを深く掘り下げます。

第三の次元:キャラクターの変化や成長
「第三の次元」は、キャラクターが物語を通じてどのように成長し、変化するかを描きます。千尋は、物語の中盤から終盤にかけて、勇気を持って行動する強い少女へと成長します。最終的には、油屋で働く中で自ら問題に立ち向かい、両親を救い、名前を取り戻すことで、自分自身を再発見します。第三の次元は、キャラクターが物語を通じてどう変化し、成長していくかを示す部分です。千尋は、怖がりな少女から、自信を持って行動するまでに成長します。この成長過程を通じて、キャラクターの本質が明らかになっていきます。

考えるべきこと②

キャラクターの表面的な行動(第一の次元)だけでなく、その裏にある内面の動機や葛藤(第二の次元)、そして物語を通じての成長(第三の次元)を意識して描いてみましょう。これによって、キャラクターが立体的に描かれ、読者に強い印象を与えることができます。

3.テーマ:物語が伝えるメッセージを深く掘り下げる

テーマは物語全体に貫かれるメッセージや思想です。『千と千尋の神隠し』では、「自己の再発見」や「成長」がテーマとなっています。千尋が名前を失い、それを取り戻す過程で、自分の本質を見つけ出すというテーマが物語の中で繰り返し描かれます。テーマとは、物語が伝えたいメッセージや価値観のことです。『千と千尋』では、千尋が自己を見失い、名前を奪われることで、自分が誰であるかを忘れてしまいます。しかし、物語を通じて、彼女は名前を取り戻し、自分が何者であるかを再確認します。このプロセスが「自己の再発見」というテーマとして描かれています。

テーマは、物語全体の方向性を決める重要な要素です。例えば、「愛とは何か」「自己成長とはどういうものか」「正義とは何か」といったテーマが考えられます。ストーリー全体を通して、キャラクターやプロットがこのテーマを表現するように意識しましょう。

考えるべきこと③

自分の物語のテーマは何か? そのテーマがキャラクターやプロットにどのように影響しているかを考え、物語全体に一貫性を持たせましょう。テーマはストーリーの根底に流れるメッセージなので、常に意識しておく必要があります。

4.コンフリクトとキャラクターアーク:試練を乗り越えて成長するキャラクター

物語には、キャラクターが直面する「コンフリクト(対立や葛藤)」が不可欠です。このコンフリクトが、キャラクターの成長や変化を促します。『千と千尋の神隠し』では、千尋はさまざまな試練に直面し、それを乗り越えることで成長します。

外的コンフリクト:周囲との対立
千尋は物語の中で、異世界の油屋で働かなければなりません。油屋での仕事や、湯婆婆との対立が彼女にとっての外的なコンフリクトです。最初はこの環境に圧倒され、怯えますが、次第に強くなり、自ら問題を解決しようと動き出します。

内的コンフリクト:自分との葛藤
一方で、千尋は自分の内面的な葛藤とも向き合っています。彼女は両親を救いたいという強い思いを抱えながらも、恐怖や不安に苛まれます。この内面的な葛藤が、彼女の行動を制限したり、逆に大きな決断を促したりします。

キャラクターアーク:成長と変化の道筋
物語を通じて、千尋は試練を乗り越え、外的なコンフリクトと内的な葛藤の両方に向き合うことで成長します。最終的に、彼女は両親を救い、異世界から帰還しますが、その過程で自分自身に自信を持ち、大きく成長しています。この成長の過程が「キャラクターアーク」として描かれています。

考えるべきこと④

キャラクターにはどのような外的なコンフリクト(敵や障害)があり、それに対してどのような内面的な葛藤があるかを考えましょう。これらを組み合わせることで、キャラクターの成長を描き、物語に深みを持たせることができます。

5.プロットの構成:物語を4部構成で考える

物語を展開する際、全体を4つの段階(設定、反応、攻撃、解決)に分けることで、バランスの取れたストーリー構成を作ることができます。『千と千尋の神隠し』もこの4部構成に沿って展開されています。

パート1:設定
物語の序盤では、千尋が両親とともに新しい町に引っ越す途中で異世界に迷い込み、両親が豚にされるという衝撃的な出来事が起こります。ここで、物語の基本的な設定と、キャラクターが置かれている状況が明確に説明されます。

パート2:反応
千尋は油屋で働くことを強いられます。最初は泣いてばかりで、何もできない状態ですが、次第に仕事に慣れ、油屋の中での生活に適応していきます。この段階では、千尋がまだ受動的であり、環境に反応するだけの存在です。

パート3:攻撃
物語の中盤では、千尋が自ら行動を起こし、積極的に問題を解決しようと動き出します。ハクを助け、湯婆婆に立ち向かうために冒険に出かける場面が、このパートに該当します。

パート4:解決
物語の最後で、千尋は両親を救い、無事に元の世界に戻ります。ここで、物語が完全に解決され、キャラクターの成長やテーマが明確に描かれます。

考えるべきこと⑤

物語を4つのパートに分け、それぞれのパートでキャラクターがどのように成長し、どのような試練に直面するのかを考えてみましょう。この構成によって、物語全体の流れが整理され、読み手にもわかりやすいストーリーが作れます。


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