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工学的ストーリー創作入門:本で学ぶ物語の作り方『インセプション』編

0.前書き

ストーリーを作るという作業は、アイデアを形にし、キャラクターに命を吹き込み、テーマを織り込みながらプロットを緻密に組み立てる作業です。ここでは、クリストファー・ノーランの名作『インセプション』を具体例に取り、ストーリー作りの各要素を解説します。

1.コンセプト:物語の問いを設定する

まず、物語は「アイデア」から始まりますが、それをストーリーに発展させるには、問いを設定して「コンセプト」にまで昇華させる必要があります。『インセプション』のコンセプトは、「もし夢の中で他人の潜在意識に入り込み、その人の思考を変えられるとしたら?」という問いから始まります。この問いが、物語全体の進行を決める出発点となります。

物語を作る際の最初のステップは、単なるアイデアを「問い」にすることです。この問いが物語の中心に据えられ、その問いに対する答えが物語の進行に反映されていきます。『インセプション』の場合、「もし夢の中に入り込み、他人の思考を操作することができたら?」という問いがコンセプトの核心です。この問いを通じて、主人公コブが罪悪感と向き合い、現実世界に戻ろうとする物語が描かれます。

考えるべきこと①
自分の物語で、まず「もし〜だったら?」という問いを設定してみましょう。例えば、「もし夢の世界で現実を変えられたら?」といった形で、ストーリー全体の基盤となる問いを考えます。この問いが明確であればあるほど、物語の方向性が定まります。どのような問いが物語の中心に据えられているか? その問いに対して、キャラクターがどう行動し、物語がどのように展開していくのかを意識することが大切です。

2.キャラクターの三次元:キャラクターに深みを持たせる方法

キャラクターはストーリーの核であり、キャラクターの行動や成長が物語を動かしていきます。『インセプション』の主人公コブもまた、物語を通じて大きく成長するキャラクターです。この成長を「キャラクターの三次元」という考え方で説明できます。

第一の次元:外見と行動

「第一の次元」は、キャラクターの外見や表面的な行動を描く部分です。コブの場合、物語の序盤では、彼は夢の中で他人の潜在意識に入り込み、プロフェッショナルとして任務を遂行する冷静なリーダーとして描かれます。しかし、過去に囚われている彼の複雑な一面が物語の進行に伴って明らかになります。コブの最初の行動は、夢の中で任務を遂行しつつも、過去の後悔に苦しんでいるというもので、彼の表面的な強さが印象的です。

第二の次元:内面の葛藤と動機

「第二の次元」では、キャラクターの行動の裏にある内面的な葛藤や動機を描写します。コブの場合、彼の内面的な動機は「過去の罪悪感から解放され、家族に戻りたい」という強い願いです。彼は妻を失ったことに対する罪悪感に苛まれ、その影響で夢の中で何度も彼女の幻影に苦しみます。コブが自分の過去と向き合い、現実に戻ろうとする姿が物語の核心にあります。

第三の次元:キャラクターの変化や成長

「第三の次元」は、キャラクターが物語を通じてどのように成長し、変化するかを描きます。コブは物語の終盤で、過去と向き合い、自分を許すという大きな決断を下します。彼は最終的に妻の幻影を手放し、現実に戻る道を選ぶという成長を遂げます。この成長の過程が、コブのキャラクターアークとして物語を通じて描かれます。

考えるべきこと②
キャラクターの表面的な行動(第一の次元)だけでなく、その裏にある内面の動機や葛藤(第二の次元)、そして物語を通じての成長(第三の次元)を意識して描いてみましょう。これによって、キャラクターが立体的に描かれ、読者に強い印象を与えることができます。

3.テーマ:物語が伝えるメッセージを深く掘り下げる

テーマは物語全体に貫かれるメッセージや思想です。『インセプション』では、「現実と夢の境界」や「罪悪感と贖罪」がテーマとなっています。コブは、夢と現実の境界が曖昧になる中で、過去の行動による罪悪感から解放されようと苦しみます。物語の終盤では、彼が夢の世界から抜け出し、現実を選択することがテーマに結びついています。

テーマは、物語全体の方向性を決める重要な要素です。『インセプション』のテーマは「自分自身と向き合う勇気」「現実を受け入れること」などです。これらのテーマがキャラクターの行動や選択にどのように反映されているかが、物語を通じて描かれています。

考えるべきこと③
自分の物語のテーマは何か? そのテーマがキャラクターやプロットにどのように影響しているかを考え、物語全体に一貫性を持たせましょう。テーマはストーリーの根底に流れるメッセージなので、常に意識しておく必要があります。

4.コンフリクトとキャラクターアーク:試練を乗り越えて成長するキャラクター

物語には、キャラクターが直面する「コンフリクト(対立や葛藤)」が不可欠です。このコンフリクトが、キャラクターの成長や変化を促します。『インセプション』では、コブがさまざまな外的・内的な試練に直面し、それを乗り越えることで成長します。

外的コンフリクト:夢の中での任務と時間との戦い
コブは夢の中で「インセプション」という困難な任務を遂行する必要があります。夢の階層が深くなるほど時間が遅く進み、任務の成功が現実世界に与える影響も大きくなります。この外的なコンフリクトが物語の緊張感を高めています。

内的コンフリクト:罪悪感と過去の囚われ
一方で、コブは妻の死に対する罪悪感に苛まれており、彼の内面的な葛藤が物語全体に影響を与えます。彼は夢の中で妻の幻影を何度も見ることで、過去に囚われ続けます。この内的な葛藤が、彼の行動に影響を与え、物語を複雑にしています。

キャラクターアーク:成長と変化の道筋
コブは物語を通じて、自分の過去と向き合い、最終的に妻を手放すという成長を遂げます。彼のキャラクターアークは、罪悪感から解放され、現実に戻ることを選ぶことで完結します。

考えるべきこと④
キャラクターにはどのような外的なコンフリクト(敵や障害)があり、それに対してどのような内面的な葛藤があるかを考えましょう。これらを組み合わせることで、キャラクターの成長を描き、物語に深みを持たせることができます。

5.プロットの構成:物語を4部構成で考える

物語を展開する際、全体を4つの段階(設定、反応、攻撃、解決)に分けることで、バランスの取れたストーリー構成を作ることができます。『インセプション』もこの4部構成に沿って展開されています。

パート1:設定
物語の序盤では、コブが夢の中での任務を引き受け、他人の夢に入り込む技術を用いるという基本的な設定が明確に説明されます。また、彼の過去に関する情報も徐々に提示されます。

パート2:反応
コブはインセプションという難しい任務を引き受け、チームを組んで作戦を進めますが、夢の世界の危険性と複雑さに次第に巻き込まれます。

パート3:攻撃
夢の階層が次第に深くなり、現実と夢の境界が曖昧になる中で、コブは過去と向き合い、任務を遂行するために奮闘します。この段階では、彼が積極的に行動を起こす姿が描かれます。

パート4:解決
最終的にコブは過去を乗り越え、インセプションの任務を成功させ、現実に戻ることを決断します。物語は、彼が夢の中の自分自身と決別し、現実を選ぶという形で締めくくられます。

考えるべきこと⑤
物語を4つのパートに分け、それぞれのパートでキャラクターがどのように成長し、どのような試練に直面するのかを考えてみましょう。この構成によって、物語全体の流れが整理され、読み手にもわかりやすいストーリーが作れます。

脚本・設定・台本製作に役立つアプリケーション「Admicrea」を開発しています。 本を読んで学んだことを忘れないため,本で得た知識を脚本(シナリオ)制作に役立てるためnoteを始めました。 よい小説・脚本を書きたいと思い勉強中です。ユーザーさんの物語の一部になれたら幸いです。