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「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」

君は「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を知っているか?

どうも安部スナヲです。

音楽好きの人なら、1969年の夏にアメリカで行われた歴史的なフェスといえば、すぐさま「ウッドストック」を思い浮かべることと思いますが、同じ年の夏、同じニューヨーク州で「ブラック・ウッドストック」と俗称されたフェスが行われていたことを知っている人がどれくらいいるでしょう。

私は普段、わりと音楽フリーク的なムードを醸しながら、受け売りのウンチクで周囲にウザがられるのが最早特技に達してますが(ほっとけ!)

正直、このフェスのことを、1ミリも知らず、己のニワカを身につまされた次第です。

いずれにせよ、これを知ってる方というのは相当のブラックミュージック通だとニワカの私は思うワケです。

何と言ってもこのフェスの出演者!
おったまげますぜ。

▪︎スティーヴィー・ワンダー
▪︎B.Bキング
▪︎フィフス・ディメンション
▪︎デヴィッド・ラフィン(EXテンプテーションズ)
▪︎ステイプル・シンガーズ
▪︎マヘリア・ジャクソン
▪︎グラディスナイト&ザ・ピップス
▪︎モンゴ・サンタマリア
▪︎ニーナ・シナモン
▪︎スライ&ザ・ファミリー・ストーン
&MORE…


ザッと、そこそこな有名どころをなぞっただけでもこんな感じです。

ちょっとズゴくないすか?

まるでソウル系のコンピレーションCDか、「通のための60年代ソウル」みたいなタイトルでサブスクのプレイリストに出てくるようなラインナップですよね。

このような精鋭メンツが一同に会したライブフェスが実際にあったんです。

それこそが「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」

本作「サマー・オブ・ソウル」は、およそ50年、断片的にしか見られず、あまり語られることのなかったそのブラックミュージックの革命的祭典を記録したライブ&ドキュメンタリー映画です。

【トニー・ロレンスって何者?!】

このフェスを主催したのはトニー・ローレンスというアメリカの芸能人です。

ロレンス氏は68年に暗殺されたマーチン・ルーサー・キング牧師の一周忌を迎えるこの年に、何としてもハーレムで黒人たちに力を与えるような音楽フェスがやりたくて、スポンサー集めや、行政への協力要請に奔走し、当時のニューヨーク市長リンゼイ氏(フェスにも参加し、ステージから激励の言葉を贈ります)のバックアップを得て、この企てを実現します。

この人がどれくらい有名で、力のあった人なのかは知りませんが、黒人社会が最も殺伐としていた時代に危険を掻い潜って、こんなフェスをやってのける行動力とバイタリティに感服します。

また彼はフェスの司会進行も勤めていて、そのウィットに富みつつも、人を引っ張る求心力を感じるMCっぷりも本作の大事な見どころです。

映画パンフレットにて、樋口泰人さんが彼のことを「清濁併せ呑むギラギラとした感じ」とあらわしていますが、正にそんな、ちょっぴりダーティーな感じも含んだタフガイです。


【“二グロ”から“ブラック”へ】

本作はライブ映像に、当時の黒人社会の情勢を関連づけて重ね合わせる演出的な編集が、より映画を意味深いものにしています。

その中でも最も胸を撃たれたのが、ラスト近くのニーナ・シモンのライブパフォーマンスと、アメリカの黒人女性ジャーナリスト、シャーレイン・ハンターゴールトのインタビューを重ねた場面です。

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ニーナ・シモン

冒頭にも述べましたが、このフェスは「ブラック・ウッドストック」とも呼ばれていました。

何だか「ブラック」と付くと闇市的に不正に行われたフェスなの?という印象を抱かないでもないですが、この場合の「ブラック」は言うまでもなく、黒人=所謂アフリカ系人種の人たちのことを指します。

そして彼らに「ブラック」という形容詞があたりまえのように使われるようになったのも、実はこの頃からなのです。

シャーレイン氏は本作のインタビューで、それについてとても大事なことを語っています。

というかこの人、ホンマにズゴい人です!

まず、彼女はジャーナリズムの名門校であるジョージア大学に入学した初めての黒人なんです。

というのも当時、黒人の学生は優秀であっても冷遇されていて、ジョージア大への編入を希望していた彼女も、学力的にはその基準を満たしていたにもかかわらず、大学から断れます。なんでやねん!しかし、それでオズオズと引き下がる彼女ではありません。なんと、裁判を起こして入学を勝ちとるんです!

考えてもみてください。まだうら若きJDがですよ。そこそこ大きな組織と裁判で戦って理不尽な慣例をひっくり返すんですよ。

そこまでできる胆力と志だけでも感動に値します。

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シャーレイン・ハンターゴールト

そんな若き日の彼女を支えたのがニーナ・シモンのこの歌でした。「To be young, gifted, and black(若くて、才能に恵まれ、そして黒人である)」

There's a world waiting for you
Yours is the quest that's just begun.
世界はあなたを待ってる
あなたの冒険は始まったばかり

劇中インタビューで彼女はこのフレーズを引用し、ニーナ・シモンが「希望を与えてくれた」と語ります。

そしてこのフェスが行われた前年、ニューヨークタイムズの記者だった彼女は、同誌の記事において、それまで黒人をあらわしていた「二グロ」という侮蔑的な表現を「ブラック」にあらためます。

すると編集者がそれを勝手に「二グロ」に変換してしまいます。

憤った彼女は、11ページにもわたる文書の中で抗議し、遂にはこれを認めさせます。

これ以降、ニューヨークタイムズ誌では「二グロ」という表現は使われず「ブラック」とあらわされるようになったそうです。



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とにかくすべての演者の沸点に達したパフォーマンスと、オーディエンスの怒りも喜びもゴチャ混ぜになったような活気と熱気だけをとっても、コンサートフィルムとして十二分にエモいのですが、そこに加えてブラックミュージックの歴史を意図的に辿るようなライブパフォーマンスのチョイスや、当時起きた色んな事件をシンクロさせながら見せる構成が本当に見事でした。

最後に、50年もの間、封印されるかのように眠ってたこれら膨大な映像を丹念に掘り起こし、復元させ、黒人たちの想いや願いがちゃんと伝わる形で、こんな素敵な映画をつくってくれた監督のアミール“クエストラブ”トンプソンに感謝&ラブ❤️を。

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監督アミール“クエストラブ”トンプソン


出典: 

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)|映画|サーチライト・ピクチャーズ



サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時) : 作品情報 - 映画.com



約50年間封印されていた伝説の音楽フェスとは? 映画『サマー・オブ・ソウル』が映し出すその全貌|Pen Online



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革命的な黒人女性作家



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MOVIE WALKER PRESS vol.19
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「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」

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