「ディナー・イン・アメリカ」破壊だけがパンクじゃなかった。
どうも、安部スナヲです。
私はパンクとは、「スクラップアンドビルド」の「スクラップ=壊す」の部分であると捉えていました。
そもそも音楽ジャンルというよりは反体制的な思想や行為、あるいは破壊衝動そのものを指す言葉(概念)でもありますから、その解釈もあながちまちがってはいないでしょう。
映画に関して言えば、やはりゲイリー・オールドマンがシド・ヴィシャスを熱演した「シド&ナンシー」が強烈な印象として残っています。
あの映画は良い映画ですが、シド・ヴィシャスの人生そのものが破滅的なこともあり、とても虚しくて悲しい物語です。
しかし、今回観た「ディナー・イン・アメリカ」は、パンクにも「ビルド」が出来ると思わせてくれる映画でした。
【箱入り娘と覆面男】
主人公はパティ(エミリー・スケッグズ)という女の子です。
過保護に育てられた内弁慶な箱入り娘。
友達らしき人はおらず、同年代の知人たちからは「負け犬」と蔑まれています。
職業はペットショップ店員で、最低値賃金で汚い仕事をさせられています。
とりあえず働いてはいますが、人生に目標らしきものは何もない、半モラトリアム人間といった感じです。
そんな彼女の唯一の生き甲斐はパンクロック。
ご贔屓は「サイオプス」というバンドで、その覆面フロントマン「ジョンQ」に心酔しています。
その「ジョンQ」の正体はサイモン(カイル・ガイナー)
彼はサイオプスの音源制作資金を稼ぐため、新薬治験の被験者になって、副反応でヨダレを垂らしたりしながら頑張っていました。
しかしバンドの他のメンバーは、サイオプスの知名度を上げる為に、サイモンからすればヌルい人気バンドとのジョイントライブの企画を進めていて、そのことで彼とメンバーは衝突します。
このサイモンという男、良く言えば実直、悪く言えば超めんどくさい頑固者。
その上、厄介なトラブルメーカーでもありますので、色々あって警察から追われる身となってしまいます。
そんなサイモンを、ひょんなきっかけから匿うことになったパティ。
この映画は、明らかに生きるのがヘタクソな2人が寄り添うことで、前向きな未来を築く=ビルドしていく物語です。
【冴えないメガネ女子萌え〜♡】
例えば「アグリー・ベティ」のベティ・スアレス(アメリカ・フェレーラ)や「リトル・ミス・サンシャイン」のオリーブ(アビゲイル・ブレスリン)
小太りで冴えない感じのメガネ女子は、アメリカの映画やドラマにおいて、もはやポップアイコン化してると言えるでしょう。
「リトル・ミス・サンシャイン」
彼女たちはどこか厭世的であり、自分の何かに(大抵は容姿に)コンプレックスを抱いていて、少々ヒネくれた性格をしています。
皆んな確かにダサくて垢抜けないのですが、それこそ破壊的な愛嬌の持ち主であり、観ているこちらは否応なしに「僕だけは君の味方だよ」という気持ちで、見守らざるを得なくなります。
そして色んな経験を重ねることで人間的に成長して行く彼女たちをみて、「不器用なキミがこんなに立派になったんだね」みたいな保護者ゴコロをまんまとくすぐられます。
この映画のパティも、ご多分に漏れずそのタイプです。
同年代から馬鹿にされ、勤務先のペットショップでは理不尽な扱いを受け、全員がどこか病んでる家族との暮らしにウンザリする一方、ひとりの部屋ではパンクロックを爆音で鳴らしながら、首がもげるほど踊り狂う。
そして憧れの「ジョンQ」へ愛の詩をしたためる…まではいいとして、そこにポラロイドで自撮りした恥辱的な写真を同封して送るんだから、筋金入りのヘンタイです。
しかし、どんなシカメッ面であろうと、どんな奇行であろうと、彼女の表情や仕草のひとつひとつ、一挙手一投足が、愛おしくてたまらず、それだけでもずーっと見ていたくなります。
特に後半、サイモンにハッキリと恋をしてからの、どうやったってほころんでしまう顔と、もうモジモジする必要はないと開き直ったかのようにKissやそういうことを求める様子は、のけ反るほどの可愛さです。
結構強いみたいです、ソッチの欲望。
【B級な世界観と90年代パンク】
監督・脚本のアダム・レーマイヤーは、この映画についてこう語ります。
「ネブラスカ州リンカーンで今の私を形作った背景と言える90年代パンクシーンへ捧げる私からのラブレターです」
(公式パンフレットより)
つまり映画の舞台はアメリカ中西部の片田舎、時代は90年代であると思われます。
この微妙にニッチな設定がこの映画の、いわば出汁になっています。
映画に出てくる街は田舎と言ってもただの不毛地帯で、景色も、そこで暮らす人々も、どこか荒涼としていて華やぎがない。
そんなムードをさらに助長する、見るからに大味で美味しくなさそうな食べ物、デカいガラクタみたいなバスや車、チープなラジカセやポラロイドカメラ、アメリカ国旗をモチーフにしたダサい服…
これらアイテムの数々も、この映画のB級な世界観の構築に活かされています。
そしてパンクロック。
一言にパンクロックといっても色々ありますが、例えばアメリカのパンクロックといえば花形は70年代後半からのニューヨークパンクで、中でもテレビジョンやパティ・スミスなどは知性や芸術性を感じます。
対してこの映画の背骨となる90年代のアメリカ、それも郊外のパンクは、知性や反体制というより、例えばニルバーナなどのグランジ勢にも顕著な、内省的な鬱屈をブチ撒ける印象が強いです。
ちなみに映画には、そのシンボルともいえるオースティンのパンクバンド「ジーザス・リザード」のヴォーカリストであるデヴィッド・ヨウが、バンドのプロモーター役としてカメオ出演しています。
【ミニシアターの趣、アップリンク京都】
この映画のようなインディー映画をミニシアターで観るのは得も言われぬ趣があります。
関西にもまだいくつかミニシアターはありますが、その中でもひときわ趣深いのが、今回私がこの映画を観た京都・烏丸御池にある「アップリンク京都」です。
この映画館は「新風館」という商業施設内にあるのですが、この施設じたいが元々は大正時代にできた「京都中央電話局」の建物をリノベーションして造られているので、大正ロマン的な風合いを残す独特なムードがあります。
劇場内もとても洒落ていて、特に雑貨屋や古着屋を思わせるような物販コーナーがとても好きです。
「ディナー・イン・アメリカ」のグッズも、可愛くディスプレイされています。
そして烏丸御池には、地下鉄の改札内に京都を代表するパン屋さん「志津屋」のお店があります。
この日は朝の上映回だったので、映画が終わるとちょうどお昼時。「ディナー・イン・アメリカ」のあとは「ランチ・イン・カラスマ」ということで、「志津屋」でテリヤキチキンサンドのランチをいただきました。
パンク映画のあとにパン食う(^_^)v
出典:
映画「ディナー・イン・アメリカ」公式パンフレット
映画「ディナー・イン・アメリカ」公式サイト
ディナー・イン・アメリカ : 作品情報 - 映画.com
海外ドラマ|アグリー・ベティシーズン1~4の動画を無料視聴できる配信サイト | VODリッチ
映画「リトル・ミス・サンシャイン」に学ぶ、負け犬人生からの反撃方法 | リクナビNEXTジャーナル
アップリンク京都
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