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「キャンディマン」鏡に向かって…笑ってキャンディ。

どうも、安部スナヲです。

何しろ「ゲット・アウト」(2017) 「アス」(2019)で開いた口がまだ塞がり切ってないというのにジョーダン・ピールってば、今度は若手女性監督の有望株ニア・ダコスタと手を組んで、またまた超コワ面白いホラー映画をブッ放してくれました。もうアゴが外れそうです。

一方で今回、図らずもピールが手掛ける作品に通底するテーマである黒人差別とエンタメ作品の食い合わせについて、ちょっとだけ真面目に考えてしまいました。

【キャンディマン伝説】


キャンディマンとは鏡に向かって5回『キャンディマン』と唱えると、どこからか殺人鬼が現れて殺されるという、いわゆる都市伝説のハナシです。

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キャンディキャンディなら鏡に向かって「笑って笑って笑って…」といって泣きべそにサヨナラしますが、こいつは泣きべそどころではすまされません。

キャンディマンのその姿は黒人の大男。皮膚が爛れた感じになっていて、肉塊を引っ掛ける時に使うような大きめのフックが右手に埋め込まれています。

被害者はそのフックで、グサリとやられるワケです。

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映画としては1992年にバーナード・ローズ監督の同名作品が公開されていて、そちらがオリジナルです。

私はこの映画を、てっきりそれのリメイク版と思っていましたが、実際を観てみると、丸っ切りの続編でした。前作をちゃんと観ておいて良かったです。

そういうことなので行きがかり上、まず92年版の方に触れる必要があるのですが、ことの始まりは、大学院生のヘレン(ヴァージニア・マドセン)が、口コミで伝わっていく伝説=口承伝説の論文を書くために、シカゴのとある旧市街地に伝わる「キャンディマン伝説」を取材したことからです。

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ヘレン(ヴァージニア・マドセン)

だいたい、そういう忌まわしいことを調べにかかるとロクなことになりません。

案の定、彼女がこの伝説について深みにハマればハマるほど、周囲の人がよくわからない死に方をしたり、彼女自身が何かに取り憑かれたように発狂したり、恐ろしいことが次々に起こります。

そらみたことかです。

【カブリーニ・グリーン今昔物語】


映画の舞台はシカゴのノースサイドにある「カブリーニ・グリーン」という地区で、元々この場所には巨大な公営住宅がありました。

今ではサウスサイドよりノースサイドの方が治安も良くて、お洒落なお店なんかも多く、カブリーニ・グリーンも高級住宅化されているそうですが、1970~80年代は貧困や犯罪、人種差別の象徴みたいな場所でした。

前述の92年版でヘレンがキャンディマン伝説の取材をしてドえらい目に遭ったのは、その頃のカブリーニ・グリーンで、今作はまったく同じ場所が舞台で時代は2019年の設定になってます。

主人公のアンソニー(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)はカブリーニ・グリーン跡に建てられた高級マンションに恋人のブリアンナ(テヨナ・パリス)といっしょに住んでいます。

アンソニーは鳴かず飛ばずの絵描きですが、ブリアンナはアート界に顔がきくギャラリーディレクターで、しかも金持ちの娘。生活面でも創作活動でもアンソニーを支えています。なんちゅうええカノジョさんや。

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右:アンソニー(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)
左: ブリアンナ(テヨナ・パリス)


ある日、ブリアンナの弟・トロイ(ネイサン・スチュワート=ジャレット)から、かつてカブリーニ・グリーンで起きたヘレンがらみの「ウワサ」と、キャンディマン伝説のことを聞きます。

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トロイ(ネイサン・スチュワート=ジャレット)

創作に行き詰まっていたアンソニーはそれをモチーフに作品を創ろうと思いたち、かつてヘレンがそうしたように、キャンディマンについて調べ始めます、やめときゃいいのに。

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そして新たな惨劇が始まるのであ〜る。

【復讐するはダレにあり?】


前作でトニー・トッドが演じたキャンディマンは、ダニエル・ロビタイルという1890年代に生きた肖像画を描く黒人画家の霊で、彼は白人のお金持ちの娘と恋に落ち、身ごもらせたことで、その父親の恨みを買って惨殺されました。

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ダニエル・ロビタイル(トニー・トッド)

今作では、過去のさまざまな年代において白人に惨殺されたり、警察によって不当に殺された黒人たち、それぞれの怨霊が代々キャンディマンとして受け継がれて行くという設定になっています。

そしてもうひとつ、前作とちがう点として気になったのは、今回キャンディマンの刃にかかって殺されるのは白人だけなんです。

これまでにジョーダン・ピールが製作に関わった長編映画の殆どは白人に虐げられた黒人というのがテーマで、その風刺表現を見事にホラーに落とし込む作風に唖然とさせられて来ました。

この映画も、面白さの点ではその期待にこたえてくれましたが、反面、これは寧ろ白人への逆差別的な表現では?と捉えられるところもあり、少々複雑な気持ちにもなりました。

もっと単純にバケモノや悪魔が人間を襲うだけのホラーであれば、難しく考えることはなかったのでしょうが、そこに人種差別を問題提起されてしまうと、必ずしも黒人が被害者で白人が加害者という図式こそ、分断を生むのでは?とか、バケモノであれ悪魔であれ、罪のない人に復讐するってどうなん?なんて、愚にもつかないことも、つい考えてしまいます。

ま、理屈抜きに恐怖を与えるからホラーなんですよね。

「やさしい悪魔」ならキャンディマンじゃなくて、キャンディーズになってしまいますもんね😂 




出典:

Universal Pictures Japan公式ウェブサイト


映画「キャンディマン」公式パンフレット


【シカゴを知ろう!その3】知っていると便利なシカゴのコミュニティ・エリア(その1) - シェアログ


カブリーニグリーン| 住宅開発、シカゴ、イリノイ、アメリカ合衆国


キャンディマン : ホラー映画を語る、ジャンのブログ


キャンディマン : 作品情報 - 映画.com


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