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「オールド」
たしかイーグルスの「ホテル•カリフォルニア」の歌詞も、これに近い物語だったはず。
どうも、安部スナヲです。
今やスリラーの巨匠と呼んで差し支えないですよね。M.ナイト•シャマラン最新作「オールド」観て来ましたよ~!
実はシャマラン監督作品を映画館に観にいったのは「シックス•センス(1999)」以来約20年振りなんです。
おうち鑑賞では他の作品も観てはいるのですが、どうも映画館に足を運んでまで観ようという気にはなりませんでした。
正直に告白しますと、私、スリラーは大好きですが、シャマランは若干アンチというスタンスです。いや、スタンスでした。
今回は本作「オールド」観賞を機に、何故シャマラン作品を素直に好きといえなかったのか、自身の「スリラーの楽しみ方」を確かめつつ、あらためて考えてみました。
M.ナイト•シャマラン
【びっくり!オン•ザ•ビーチ】
まず本作の感想を端的に述べると、とてもおもしろかったです。
ドキドキハラハラな緊張感をゆるやかに保ちつつ、ここぞというところで訪れる「ワッ!びっくりしたあー!」のサプライズ。まるで心臓が弄ばれるような怖さを存分に味わわせてくれる、由緒正しいスリラーでした。
あらすじについては、本作はとくにネタバレ要素が多いのと、「そのビーチでは、一生が一日で終わる」というキャッチコピーが概ね顕しているので、細かくは割愛しますが、まず舞台のビーチがとてもいいです。
美しいエメラルドグリーンの海と、地獄を思わせる険しい岩壁のコントラストが如何にも映画的でワクワクします。
そんな開放的でありつつ閉ざされた空間の中で、次々に不気味なことが起きるのですが、またその見せ方が気持ちいいくらいに気持ち悪いんです(どっちやねん!)
ジョーズが迫ってくるような感じで死体が流れてくるわ、ばあさん急にブっ倒れるわ、黒人ラッパーの鼻血は止まらんわ、挙句、ちょっと親が目を離した隙に6歳だったはずの坊やは12歳くらいに、11歳だったお嬢ちゃんはセブンティーンの表紙を飾るくらいのギャルに「成長」してるわ、冒頭のたたみかけだけでも、もうワケがわかんなくて、これも最高です。
そうしてこのビーチに招かれた数組の家族は、自分たちのいる場所が異常であることに気がつき、ここから出ようと試みますが、どういうワケか出ることができない!?
物語はさらに狂気へと加速していきます。
【ちょっと待った!のドンデン返し】
ここで、私がシャマランにあまり良い印象を抱いていなかった理由について、少し触れたいと思います。
そもそも彼の代表作であり、映画史に残る傑作と名高い「シックス•センス」は、私にとっては残念な作品でした。
『シックス•センス』
この映画は「ラストは誰にも話さないでください」というのがキャッチコピーになっていたくらい、その結末に重きをおいた作品でした。
私は決して勘がいい方ではないのですが、この映画に限って、何のはずみか観てる途中で結末がわかってしまったのです。
しかも、「まさかこんなオチやったりして…ま、それはないか(笑)」と思ったことが、実際の結末でした。
過去作なのでネタバレしてしまいますが、「シックス·センス」は死者が見えるという少年、コール(ハーレイ·ジョエル·オスメント)をカウンセリングしていた小児科医、マルコム(ブルース·ウィリス)が、実はとっくに死んでいて、マルコム自身はそのことに気づいていないという結末でした。
これについて、いろいろ納得が行かないワケですが、いちばん腹立たしいのは伏線としての「妻が急に私を無視するようになった」という台詞。
いくら何でもそれはムチャでしょ。
同居してたら、その様子から自分の姿が見えてないことくらいわかるはずだし、普通死んだら葬儀も上げるし、祭壇に手も合わせる…いや、十字を切るか…とにかく夫の死を悼む何らかの振る舞いが必ずあるはずです。
…と、そのような矛盾に承服しかねたこともあり、以降のシャマラン作品に対しては、どこか斜に構えて観るようになってしまいました。
本作に関しても、何故その異常な現象が起きるかという裏付けや、誰が何の目的で彼らをそのビーチへ招いたかというタネ明かしのロジックについては、やはりムチャだと感じました。
【クイズ!オカルトQ】
しかしながら振り返って考えてみると、元々はSFやスリラーで起きる奇妙な現象やサプライズに、いちいち整合性を求めたりしていませんでした。もっと素直に驚き、素直に怖がり、ただそれを楽しんでいたはずです。
いつからこんなふうに重箱の隅をつつくようになったのか。
私の場合そのきっかけが、わりと明確にあります。
それは90年代にブームを巻き起こした、鈴木光司の「リング」「らせん」や瀬名秀明の「パラサイトイヴ」に代表される、サイエンス系ホラーです。
『リング』©1998「リング」「らせん」製作委員会
当時、これらの小説はベストセラーになり、次々と映画化もされました。
例えば「リング」「らせん」では、呪いのビデオを見た人は一週間後に死にます。そんなことが実際に起こるワケがありません。だからといってそれを追求しようなんて、それまでは考えもしませんでした。
だけどこれらの作品は、実際に起こるワケがない現象に、最もらしい科学的根拠をあてがって、あたかも起こりうるような論理を構築することで、さらに怖さを増幅させました。その論理がとてもよくできていたので、画期的な作品でしたし、世間でも評価されていました。
何となくこのあたりから、オカルトであれオバケであれ「小説や映画の中でのハナシだから」ということで、根拠を示さないのは愚昧だという空気が、国内外問わずあったように思います。そんな風潮に私も影響されていたんでしょう。
だったら、そのオカルトを科学的に説き明かす論理がそんなにおもしろかったのかというと、その部分は今となっては全く憶えてなかったりします。
結局そこじゃないんです、おもしろいのは。
【あらためて、天才!シャマラン】
本作ではヒッチコックをはじめ、往年のスリラー映画のオマージュや、35mmフィルムのザラついた映像など、意図的に古い映画を思わせる演出がされています。
私などは子供の頃にテレビの洋画劇場で観てた怖い映画の雰囲気を思い出し、そういう意味でも楽しみました。
逆に今の時代、こんな昔のミステリーゾーンみたいな映画をつくる人は、もうシャマランしかいないのかも知れないなと、あらためて感じました。
何より本作のテーマは家族愛であり、人生の捉え方です。
本来、それを究極のタラレバの中で描くのがスリラーの、ひいてはフィクションのおもしろいところです。
一応、律儀に伏線回収も謎解きもタネ明かしもされていますが、どだい荒唐無稽なハナシです。そこまで辻褄合わせなくてもいいと、今ならそう思います。
西から昇ったおひさまが、東へ沈むプロセスなんて、どうでもいい。
これでいいのだ。
出典:
オールド : 作品情報 - 映画.com
シックス・センス : 作品情報 - 映画.com
M・ナイト・シャマラン - 映画.com