「ガンズ・アキンボ」
「けれん味」について考える。
どうも、安部スナヲです。
突然ですが「けれん」という言葉をご存知でしょうか?
きよし師匠の奥様でも、ダスティン・ホフマンが式場から連れ去る女の名前でもありません。
私がこの言葉をはじめて耳にしたのは、某ドキュメンタリー番組でスタジオジブリの社長・鈴木敏夫氏が、次回作のキャッチコピー案を持って来たプロデューサーに対し、「けれんがない」と言って却下している場面を見た時です。
その後、映画レビューなどで「けれん味タップリな演出」と言った使い方をされているのをしばしば聞くようになりました。
「けれん」って何だろう?
と思って調べてみるとこのように解説されています。
けれん【外連】
1 歌舞伎や人形浄瑠璃で、見た目本位の奇抜さをねらった演出。また、その演目。早替わり・宙乗り・仕掛け物など。
2 ごまかし。はったり「言うことに外連がない」
出典:goo国語辞書
なるほど。
何となく見た目のインパクトでウケを狙うというようなニュアンスでしょうか。
だけど何だか釈然としません。
この言葉にはもっと大衆心理を手玉に取ったようなあざとさが含まれているように感じるのだけど…
と、思っていたところに先日「ガンズ・アキンボ」という映画を観てハッとしました。
というのもこれこそ私が考える「けれん味」のオンパレードだったからです。
【けれん味 その1】
主演がハリー・ポッターのダニエル・ラドクリフ
もうこのキャスティングそのものが私に言わせればけれんの極みです。
かつてのあの愛らしい少年だったハリー・ポッターがこんな小汚いオッサンに。
年月による無情な劣化に多くの人は内心ほくそ笑むことでしょう。
しかもその役というのがネットへのクソリプでストレスを発散してるクズオタク野郎。
彼はハリーポッターシリーズ後も色んな映画に出演してはいますが、ある意味これほどキャッチーな役はなかったのではないでしょうか。
かつてのパブリックイメージとは真逆でありつつ、まちがいないハマり役。
つまり、この人の個性のあかん方を惜しみなく活かせる役ではないでしょうか。
【けれん味 その2】
殺し合いを生配信「スキズム」
本作はリアルに人が殺し合うゲームを生配信する「スキズム」でのバトルが主旨です。
劇中、この闇サイトは大人気で、人々は殺し合いのゲームに熱狂します。
人の不幸に嗜虐的快楽を覚える人間のえぐみを誇張した、これぞけれん味。
【けれん味 その3】
両手に拳銃を固定
主人公・マイルズは、「スキズム」へのクソリプで主催者の怒りを買ったことで、その殺しのゲームに強制的に参加させられます。
その際、襲われて気絶させられている間に、両手に穴をあけて貫通させたボルトで2丁の拳銃を固定されます。
この人体改造。
残酷なのに笑わずにはいられない、けれ〜ん!
【けれん味 その4】
ワルお茶目なサブキャラ
「スキズム」の主催者・リクター(ネッド・デネヒー)
顔中に気持ち悪いタトゥーが入って何とも凶々しいヤツですが、極悪な台詞のあと、絶妙な間でポロッ面白いことを言います。
例えばモニターに映る自分の顔を見て「オレの顔が怖すぎる、モザイクをかけろ」とか、
逃亡用に手配したヘリコプターが思ったより遅いものだから「しまったUberにすれば良かった」とか、なかなかウィットに富んだ悪者です。
ヤク中でブッ飛んだ殺人ギャル・ニックス(サマラ・ウィービング)
マイルズの対戦相手で、もうひとりの主人公といってもいいでしょう。
どことなくニナ・ハーゲンとか「ブレード・ランナー」の時のダリル・ハンナを思い出します。
彼女もリクター同様、ポロッと面白いことを言いますが、ほとんど下ネタです。
中でも「キ◯タマスプラッター」と高笑いしながら叫ぶシーンでの阿保ップリは最高でした。
その他にもアクションと音楽のジャンクなグルーヴや、これ見よがしなストップモーションの多用など、すべてにおいて、ベタベタなけれん味の連続でした。
監督・脚本のジェイソン・レイ・ハウデンは元々V F X(ビジュアルエフェクト)技術者としてキャリアが長い人だそうで、その所為か本作も映像的には硬質でハイテクな印象でした。
そこに関してはあまり好みではありませんが、とにかく過去の色んな映画からのワザとな引用も多く、そういうサービス精神は嬉しいです。
…と書いてハタと気がつきました。
「けれん味」とは「サービス精神」のことですね。
出典:
映画.com