地域から求められるオリエンテーリング大会を開催するためには
まずは、記事を開いていただきありがとうございます。
2017年筑波大学入学の谷野文史(たにの ふみちか)と申します、もう社会人3年目になりました。
大学時代から競技はもちろん頑張っていましたが、皆さんのイメージとしては運営(大会、学連等組織)のイメージが強いと思いますし、実際自分の興味としてもここにあり、力を入れて取り組んできました。
社会人になってからもその思いは変わらず、全日本大会の協賛渉外を担当したり、地域や企業とコラボしたナビゲーションスポーツのイベントの開催を継続して行ってきました。
今回はこれまでの自分の経験から、「地域から求められるオリエンテーリング大会を開催するためには」というテーマで記事にしてみました。
これから大会渉外に取り組む方や、オリエンテーリングの普及に取り組みたいと考えている方の一助となれば幸いです。
地域から求められる大会を開催するためには
「オリエンテーリングは、地域の土地を借りて開催するスポーツです。」
という教科書的な文言がありますが、皆さんは地域の土地を借りるということを真剣に考えたことはあるでしょうか。
ある日あなたの家の前にいきなり、知らない団体の知らない人が「XXXXは素晴らしい競技なので、土地を貸してください!」そう言って来ても、なかなかOKを出す人はいないはずです。
特にテレインがある山林地帯や農村に住む人達はいわゆる"ヨソモノ"に強い抵抗感を感じる人が多いです。これでは、地域から求められる大会とはなりません。
しかし、逆に地域の人から依頼されたことに対してはノリノリで対応してくれる可能性が高いです。
このため、ファーストアタックはなるべくその地域行政/団体で役職が上の人、あるいはそのようなイベントの開催を権限がある人/団体に、以下の3つのアクションをかけていくことが大事であると考えています。
イベントを理解してもらい、開催に同意してもらうこと
一緒にイベントをつくってもらうこと
地域の人から開催の周知・協力を呼び掛けてもらうこと
今回は、この3つのアクションを中心に「地域から求められるオリエンテーリング大会を開催するためには」ということを考えていきたいと思います。
ちなみに、ファーストアタックとしておススメなのはスポーツコミッションです。
市役所はどうしても縦割り組織なので、XX課はここまでしか協力できなくて、、、●●課は知らなかった(だから協力しない)、、、というような事態に陥りがちですし、担当者の組織を動かす力が弱く袋小路にはまることがあります。
スポーツコミッションは我々の要望に対してその課題ならばXX課、この話は●●(企業名)にするといいかも知れない、など市役所に限らず地域横断的にアドバイスをいただいたり、話を取り次いでいただけます。
スポーツコミッションがある地域に偏りがある現状ではありますが、もし開催地に存在しているのであれば使わない手はないと思います。
また、市役所に話を持っていく場合でもスポーツ課や観光課などの複数の課の課長職以上に集まっていただき、説明を行うのがいいと思います。(事前のメールや電話がとても大変ですが。)
1.イベントを理解してもらい、開催に同意してもらうこと
地域の方々に開催に同意してもらうポイントは、「イベント開催の地域へのメリット/効果を明示する」ことにつきます。
我々はボランティアで大会運営をすることが多いですが、相手は仕事として我々の対応をします。社会人の皆様なら感覚がわかると思いますが、自社・自分の組織のメリットにならないものに対しては協力しない、協力したとしても適当な仕事をすることでしょう。なぜなら、彼らの1分・1秒には人件費がかかっているためです。
そのため、少しでも開催によるメリット/効果を明示する必要があります。
では、オリエンテーリング大会の開催のメリットは何でしょうか。今年度開催された笠間インカレを例に考えてみたいと思います。
まず、1つ思いつくものとしては様々な地域・色々な世代がそのイベントをめがけて地域を訪問するということです。実際、観光地や大きなスポーツ施設がない地域にとっては、1人でも多くの人が地域を訪問することは喜ばしいことですし、担当者の目線に立ってみると、このイベントに協力するとこれだけの人を地域に招くことができたという実績になるわけで、ぜひ協力したいという思いになります。
ここで大切なことは、その効果を可視化することです。
この大会は何人規模の大会なのか、どのような地域の人が集まるのか、どういう年齢構成なのか、そういったことが数字として可視化されていると、彼らはイベント開催によるメリットをより実感することが出来ます。
また、地域に人を呼び込むということは一歩踏み込むと地域に経済効果を生むと言い換えることが出来ます。精緻化する必要はないですが、ぱっと思いつくだけでもイベントを通じて以下の経済効果があるのではないでしょうか。
600人が来る大会を想定して、、、
■運営者の宿泊費(準備含む)
5,000円/名・日×100名・日=500,000円
■開催地近辺での参加者の資材費
150,000円
■開催地近辺での参加者の宿泊費
8,000円/名×400名(2/3くらい?)=3,200,000円
■開催地近辺での参加者の食費
3,000円/名×400名(2/3くらい?)=1,200,000円
■開催地近辺での参加者の土産等雑費
400円/名×500名(5/6くらい?)=200,000円
計 5,250,000円
ものすごく雑な計算で見積りも甘いですがイベントを通して地域に525万円落ちるイベントを開くんですというと、担当者もきっと目を輝かせることでしょう。
また、大会開催によってテレインが出来上がることで単年だけでなく、練習会や別のイベントの開催で、長期的な経済効果を生むことが出来るということも推すことができるポイントだと思います。
上記の他にも、「大学生が多いからSNSで地域のことについて発信してもらえる。」「大学生が多いから社会人になってからの複数の再訪が期待できる。」あるいは、「このイベントで街を好きになって将来移住するかもしれない」といったように、競技界・そこに属する人の特性や運営母体の特性などから様々な観点でアプローチすることができます。
なので大会を企画する際には、競技だけでなく、競技を無事に成功させるためにも「イベント開催の地域へのメリット/効果を明示する」ことを考えてみてください。
2.一緒にイベントをつくってもらうこと
一緒にイベントを作ってもらうこととは、すなわち「地域の人のイベントへの関与度を高める」ことです。
これは、大会運営だけでなく仕事で非常に大事なことですが、複数人で一つのプロジェクトを進める上では、参加者がそのプロジェクトに関与する機会を多くし、参加意欲を高め、自分の意思を持って取り組んでもらうことが大切です。
私も会社で後輩を持つようになる年代になってきましたが、自分1人でやったほうが速く終わるかもしれないタスクをわざと後輩にふり、自分で考えて取り組んでもらうことで 関与度=参加している感 を高めてもらっています。
オリエンテーリングの大会運営の場合だと、地域の人達にとってはどうしてもオリエンテーリングの人達=ヨソモノがなんか頑張っているんだなぁという印象を受けるだけになり、自分たちは関係ない、関与しなくていい、頼まれたことだけやろうという姿勢になってしまいます。
なので、いかに「地域の人のイベントへの関与度を高める」かがポイントになってきます。
例えば、笠間インカレでは以下の施策に取り組んでみました。
1つは、地域クーポンの導入です。
イベント開催に伴う地域への経済効果を高めるという効果もありましたが、自分たちのお店/自分たちがよく行くお店も笠間インカレの構成要員なんだと地域の人に感じてもらうことが最大の目的でした。
まず、このような仕組み自体、笠間市では初めての取組であったため、笠間スポーツコミッションさん および 笠間市商工会さん に手と頭をかなり動かしていただき、何とか導入にこぎつけることができました。そこには、担当者の方の「参加者に笠間市の魅力を堪能してほしい」、「参加者に笠間市にお金を落としてほしい」という強い能動的な思いがあったから実現できたのだと思います。
おかげさまで協力いただいた各店舗の皆様も開催・取り組みを非常に好意的に受け止めていただき、各店舗でポスターを掲示いただいたり、お客さんに笠間インカレのことを紹介していただいた店舗もあったそうです。(当日もジャージを着たたくさんの大学生がお店を訪れて、地域クーポンを使ってくれたと大変喜んでいらっしゃいました。)
もう一つの施策は、笠間市の食や文化を堪能してもらうというものでした。
こちらは、笠間市さんの頑張りどころですよと当初から伝えていました。
せっかく来た参加者がまた(オリエンテーリング以外でも)笠間市を訪れたいと思ってもらうためには、笠間市の人が笠間市の魅力をいかに伝えるかですよと発破をかけて協議して生まれたのが、食=キッチンカーの出店、文化=パフォーマンス でした。
特に笠間スポーツコミッションさんには大変ご尽力いただき、笠間市を代表するようなお店にお声がけいただきキッチンカーを出店いただいたり、パフォーマンスでは茨城アストロプラネッツさんのチアリーダーによるダンスパフォーマンス、近森稲荷さんによる笠間市の伝統芸能「笠間稲荷ばやし」のパフォーマンスを実施いただきました。
運営者・参加者のみならず、地域の人に「この大会を成功させたい」「参加者に楽しんでもらいたい」と思っていただいたからこそ、地域に求められる大会が出来上がったと考えています。
3.地域の人から開催の周知・協力を呼び掛けてもらうこと
最後は、地域の方々を主体としてイベントについて周知・発信いただくということです。
渉外的な側面では、実は笠間インカレでは周辺民家への開催の呼びかけ・協力の依頼を笠間市さん側で実施いただきました。上述のとおり、ヨソモノからお願いするよりも、地域の方々から依頼された方が安心感があるからです。おかげさまで、大会開催期間中の近隣の方々からのクレームは一切ありませんでした。
発信という側面では地域が持つ広報媒体で、イベントについて広報いただくように根回しをしました。これは、イベントが単に日本学生オリエンテーリング連盟が勝手に開催しているものではなく、笠間市・茨城県のイベントであるということを地域の方々にアピールするためでした。
実際に下記のとおり笠間市さんではイベントの開催を各種SNSで取り上げていただきましたし、茨城県側でも本イベントを茨城県のスポーツイベントとして発信いただきました。(日経新聞や毎日新聞、読売新聞など様々な新聞でも笠間インカレに関連する記事を掲載いただきました!)
もちろん、地域の周知という観点では運営者側の努力も大切です。
主に地域の人に笠間インカレを知ってもらうことを目的に、テレインの半径8km以内のほぼすべてのコンビニに一軒一軒挨拶し、ポスターを貼ってもらいました。コンビニだけでなく、スーパーやドラックストアなど、泥臭くお願いにいきました。
おかげさまで笠間市の皆様にも、オリエンテーリングなるイベントが笠間芸術の森で開催されることを認知いただくことが出来ました。
こうした地道な発信が、地域の人達に認知いただき、地域の人がイベントを歓迎するムードを作り上げることに繋がったと考えています。
以上が、地域から求められる大会を開催するために必要な3つのアクションのご紹介でした。
開催後のケアが次の開催に繋がる
無事大会を成功させると、どうしても力が抜けてしまいます。
報告書を作らない大会、作ったとしても1年後、というような大会は多いと思います。
しかし、ここでひと踏ん張りすることで次回大会の開催に繋げることが出来ます。
大会に関わった人は自分達の協力でどのような効果があったのか、あるいは仕事として関わった人にとってはどれだけの成果をあげたのかということに非常に関心を持っています。
このため、参加者の分析やアンケートの分析の結果を連携することは、関わった人の満足感や次回も手伝いたいという思いを高めます。
報告書の例・イメージとしては、下図の笠間インカレの報告書を参考にしてください。ポイントはイベント開催の効果をわかりやすく可視化することで、客観的に評価できる数字を重用しています。
最後に
これから大会運営・渉外に取り込む大学生の皆さんへ
記事内で偉そうなアドバイスをたくさん送っていますが、あくまで参考資料だと思ってください。なぜなら、ここに書いてある内容は"こうあるべきだ"というものではないからです。大会や運営団体、地域の特性次第で変わるものですし、私ももっといいやり方があるんじゃないかと思っています。こんな考え方があったよなと思い出してもらうのがいいんじゃないかと思います。
また、渉外って何をやったらわからない、知らない人に話しかけアプローチすることを怖いと思う方も多いと思います。そこは、大学生という身分を存分に活用してください(笑)。大学生は失敗しても、なんとかなります。私自身、成功なんてほんのわずかで失敗に失敗を重ねてきました。地域の方に怒られたりしましたし、辛い思いをして涙を流すことも多かったです。最初からうまくいくことなんて絶対ありません。でも、チャレンジをしない限りは何も生まれません。ぜひ、チャレンジしてみてください。
時にはお作法が~、センスがない~、進め方をわかってない~、なんて大人もいることでしょう。必要なアドバイスは利用したらいいと思いますが、必要じゃないと思ったらガン無視で結構です。大学生の熱い思いというものは、皆さんが思っているより大人を動かします。作法や理を超えて、人を動かす恐ろしいエネルギーです。
皆さんが熱く、そして何より楽しく、大会運営・オリエンテーリングに取り組むことを願っています。(相談はいつでものります)
今後について
オリエンテーリングに出会いこれまで7年間、全力疾走してきました。
大切な仲間や先輩に出会い、支えられ、たくさんの思い出が生まれました。
私の人生はオリエンテーリングで構成されているのではないかと思っているくらいで、このオリエンテーリング界を本当に愛しています。
運営することのモチベーションは何だったかと振り返ったときに、そんな大切で大好きなみなさんに、自分の頑張りによって笑顔になってもらえることだったのだと思います。
残念ながら突っ走りすぎてしまったようで、少し前から体調を崩してしまっており、病気との戦いは長くなりそうです。
いい機会だと捉えてしっかり休みを取りつつ、他のスポーツ界やナビゲーションスポーツ全体の普及、スポーツを通じた地域づくりなどを勉強したり、取り組んでみようと考えています。
ただ、心はオリエンテーリングにあるので、会場で見かけたらたくさん声をかけてください!
以上、ここまで読んでくださりありがとうございました。