【ポケモン対戦理論】構築論の階層化モデル【言語化】
はじめに
ポケモン対戦の構築論は現在、日進月歩でプレイヤー達のレベルや思考の複雑性が高まってきています。そうした中、構築論の概念を言語化、モデル化することは、より明瞭かつ再現性高く強力な構築が開発することに寄与できるため、こうした取り組みの必要性やプレイヤー達からの要請は日に日に高まってきていることでしょう。そのため、今回は一つのアイディアを元に、構築の思考を助ける有用な道具となるモデル化を行います。
概要
ポケモン対戦(シングルバトル)の構築時の思考には、その戦略性、戦術性から概念的な階層化が可能だと考えています。例えば、対面やサイクルや展開などの構築のコンセプトの概念と、実際のダメージ計算による詳細な形勢判断は、同じ構築時の思考であっても、概念的な次元が異なります。そのため、構築時の概念的な次元を分類し、整理し、モデル化することで
①構築の問題点の発見に寄与する
②構築の問題点の対応策の開発に寄与する
③構築開発時の効率性を高める
④対戦相手の構築の分析の効率性を高める
⑤勝因や敗因の分析の効率性を高める
以上の効果が期待できます。そのため、今回は通信理論の分野のOSI参照モデルやTCP/IPなどのネットワークアーキテクチャの階層化モデルのアイディアを利用し、ポケモン対戦の構築論の階層化モデルを
①ダメージレース層
②仮想敵層
③役割層
④補完層
⑤選出構成層
⑥構築コンセプト層
の6層に概念的に分類して考察することにしました。
構築論階層化モデル
構築論階層化モデルを具体的に説明していきます。
モデルは下位層から順に
①ダメージレース層
詳細なダメージ計算やステータスの実数値を考察
②仮想敵層
各キャラクターの仮想敵とその課題や対策を考察
③役割層
各キャラクターの役割(対面駒や高火力ATやクッション等)の構成を考察
④補完層
各キャラクター同士の補完関係や並びの採用理由等の考察
⑤選出構成層
実際の選出構成(対面選出や2クッション1アタッカー選出等)の考察
⑥構築コンセプト層
対面やサイクル、展開、アグロ、コントロール等の構築コンセプトの考察
へと上位層に上がっていきます。つまり①ダメージレース層の階層での思考が最も低次で、⑥構築コンセプト層の階層での思考が最も高次であることを意味します。
更に、上位3層に関しては戦略層、下位3層に関しては戦術層として大きく分類できます。
そしてそれぞれの階層を自分と対戦相手で相互に対応させて考えることで、相手の戦略や戦術がどの階層に位置し、自分の戦略や戦術と闘ってどうなるかを検討しやすくできます。
つまり、自分がもし対戦相手に負けた場合、その敗因がどの階層に問題があって負けたのかの敗因究明や構築の改善に寄与できます。例えば、お互いの構築のコンセプトが対面構築であった場合は⑥構築コンセプト層では同コンセプトへの対応ができる構築であったかが問題となり、仮に詳細なダメージ計算の問題で相手のキャラクターに対面で打ち負けてしまった場合、その場合は①ダメージレース層の問題として、より詳細なダメージ計算やステータス調整を施すことで敗因分析から解決に至ることができます。ここで重要なのが、敗因からの課題解決に際しては下位層が解決しないことにはそれより上位の階層の解決は困難になる(上位層の変更は構築全体の変更に繋がる)ので、可能な限り下位層(戦術層)から課題を解決するようにすれば良いでしょう。
それでは、各階層の詳細な説明に移ります。
①ダメージレース層
この階層では、数値的な各々のキャラクターのステータス調整やダメージ計算やターン毎の手筋を扱います。滅びの歌や道連れ、一撃必殺などの特殊な敵キャラクターの倒し方や確率論も含めて、実際の戦闘での数値的な思考を全般的に考察します。構築時のこの階層での思考は、実際に仮想敵を定め、ダメージ計算を行いダメージレースの形勢判断を行います。そうすることでこの一つ上の階層の仮想敵層で各キャラクターの形勢判断から敵キャラクターの解決策をどのように用意するか具体的に検討できます。ポケモン対戦は数値と確率のゲームなので、このダメージレース層が最も基本的で下位の階層となっています。
②仮想敵層
この階層では①ダメージレース層で判明した形勢判断を元に、具体的に敵キャラクターを相手にした時の解決策を検討します。例えば、相手のパオジアンを仮想敵にした時は、テツノカイナを用意すれば基本的に大きく優勢となり解決できます。その他、相手のキョジオーンを仮想敵にした場合は隠密マントを持った積み展開のキャラクターを用意するか、眼鏡サーフゴーを用意することで優位を取れるようになると考えます。この階層では仮想敵への対応を先程の例よりも優劣の付きにくいキャラクターで複雑な手筋を使って解決させる場合も含みます。
③役割層
この階層では、自分の各キャラクターの役割を、具体的な仮想敵を絞らずに対面駒やクッション駒、高火力AT駒、崩し駒、起点回避駒、スイーパー駒等と広く抽象的に分類させることで構築を検討します。そのため、例えば鉢巻パオジアンや鉢巻水ウーラオス等は高火力AT駒と明確に役割を規定し、ラベルを貼っていきます。その役割の配分や構成に関しては最上位層の⑥構築コンセプト層で扱います。
④補完層
この階層では各キャラクターを複数扱い並びや補完関係を扱います。例えば、スカーフ水ウーラオスと眼鏡ハバタクカミは先発のスカーフウーラオスで相手にクッションのカイリューを呼びながら蜻蛉返りをしてマルチスケイルを割り眼鏡ハバタクカミに交代して高火力のムーンフォースで対面と交代先の両方に打点の一貫を作る強力な並びです。これは攻撃的な補完関係と言えます。他にはキョジオーン+カイリューやディンルー+カイリュー+サーフゴーなどのお馴染みの並びも含めて3駒以内で作れる並びや補完関係を検討します。これを使って⑤選出構成層や⑥構築コンセプト層で更に構築を煮詰めていきます。
⑤選出構成層
この階層では、実際に選出する各キャラクターの構成を仮想敵構築毎に選出パターンとして構築していきます。そして選出パターンの3:3や2:1:1:2などの配分もここで検討します。例えば3:3の場合、極端であればドヒドイデ+ハピナス+へイラッシャの受けループ選出とディンルー+カイリュー+サーフゴー等のスタンダード選出や水ウーラオス+ハバタクカミ+パオジアン等の高火力AT選出を合わせた構築を考えることができます。
⑥構築コンセプト層
この階層では、③役割層で定義した対面駒やクッション駒、高火力AT駒、崩し駒、起点回避駒等を実際にどう配分して構築するか、又は先程の例の受けループ選出で相手の選出を誘導して残りの攻撃的な選出で優位を取って勝利する等の戦略性の検討をします。それが例えば対面特化なら、6匹全てのキャラクターを対面駒にして仮想敵を振り分けることで勝利まで逆算することができますし、コントロール特化なら、6匹全てを受け駒にしてそれぞれ仮想敵を振り分けて闘うことコンセプトにできます。また、雨パなどの天候コンセプトやフワライドバトンなどのバトン展開コンセプトも、戦略性としてこの階層で扱います。ここでは構築全体に及ぶ戦略性を検討します。
構築論階層化モデルの応用例
このモデルは、自分の構築だけでなく、対戦相手や上位者の構築記事に対しても分析に利用できます。
では、S13のLazyさんの【SV S13 最終19位】二極化対面スタンを例に構築論階層化モデルを使って分析してみましょう。
他人の構築の分析に際しては、③役割層の分類から始めるのが効率が良いです。
③役割層
・赫月ガチグマ 対面駒・崩し駒
・炎オーガポン 対面駒・霊妖鋼クッション駒
・カイリュー 対面駒・物理アタッカー駒・スイーパー駒
・ハバタクカミ 対面駒・起点作成駒・起点回避駒
・水ウーラオス 対面駒・物理アタッカー駒・スイーパー駒
・ヒスイヌメルゴン クッション駒・要塞型展開駒
以上の分類から、⑥構築コンセプト層は対面駒5+クッション兼要塞型展開駒1の対面構築だと分析できました。そして構築記事にあるように
・対面的に動き、数的有利を取って逃げ切る
・ハバタクカミ+ウーラオスに対してヌメルゴンで詰ませる
以上を基本戦略としたコンセプトであることも前提できました。
ここから、⑤選出構成層で具体的な選出パターンがどうであったかを予想し、④補完層で水ウーラオス+ハバタクカミの並びや赫月ガチグマ+カイリュー+炎オーガポンの並びが採用されていることに着目し、②仮想敵層でヒスイヌメルゴンが相手の水ウーラオス+ハバタクカミの並びへの強力な対応策になっていたことを踏まえて、①ダメージレース層でダメージ計算を行い、採用されているヒスイヌメルゴンが眼鏡ハバタクカミには対面でしか対応できず、BEハバタクカミには受け出しから対応が可能であることが判明し、実戦でのプレイングを予想することができます。
このようにして、構築論階層化モデルは、更に詳細に分析を進めていくための心強いツールとなることでしょう。
おわりに
ポケモン対戦での構築論は、対戦相手や上位者構築記事の分析を深めて、その強力な要素を自分に取り込み学習を積むことで、またその成果を言語化することで自分で構築を考案する時に強力な構築や勝利の再現性を高められます。またその時に言語化したモデルを今回のようにフレームワークとして扱えるようにしていれば、他のプレイヤー達と議論して構築を検討する時にも活かせます。今回の取り組みは、その一助になれば幸いです。