議論スペース「人は言葉がなくても考えられるのか?」の背景と経緯
この記事は7月10日21:00~22:30に@Advance_Hackerのアカウントで実施されるTwitterスペース「人は言葉がなくても考えられるのか?」の告知と予備知識のまとめです。
経緯
以前僕とレートムさん(@le_thm)がTwitterスペースで話していた時に、ふと「人は言語がなくても思考できるんじゃないか?」と思い、話題に出してみると、レートムさんは「僕は人間の思考は言語がないとできないと思っています」と返し、そこから神経心理学や哲学などの発想を交えながら僕とレートムさんとで熱い議論が始まりました。その時はお互いカジュアルに議論していたので準備が十分にできておらず、「ここから先は各専門家に委ねるしかありませんね…」とお茶を濁した形で終わってしまいました。そしてまた今度お互いしっかり準備した上で議論してみようということになり、今回の議論スペースが企画されることとなります。
背景となる論点
■言葉(言語)の定義
以上による言語の辞書的定義から、その記号体系としての性質や機能を抽象的に捉えることで、以下のように幾つかの本質的な定義を用意することができます。
・文字や音韻など記号的表象に置き換えられる表現体系
・自然言語や人工言語を含めた文法が定義される表現体系
■考えること(思考)の定義
■思考するには言語が必要か?
・神経心理学からの考察(vanの主張)
ここでの思考の定義は上記の狭義の定義を扱います。その場合、我々は思考をする際に脳の長期記憶から様々な概念や表象を参照していると言えます。その時の長期記憶は陳述記憶と非陳述記憶の大きく分けて二種類に大別されます。
ここでの非陳述記憶(言語で陳述できない記憶)に分類される手続き記憶(物事の操作の順序・アルゴリズム等)が最も顕著であり、我々が思考をする際に無意識的な処理を行っていることの証左であると考えています。従って「人は言葉がなくても考えられる」と結論付けました。
・哲学からの考察(レートムさんによる記載)
vanさんは神経心理学の観点から、私たちが何かを考えるということについて説明してくださいました。 その説明によると、これまで学んできた記憶を頭のなかで操作することで、さまざまな目的や課題に立ち向かうというのが「思考」ということになっていました。 ここで重要なのは、例えば「自転車の乗り方」についての記憶、すなわち非陳述記憶に分類される手続き記憶のもつ役割です。 この手続き記憶は、物事の操作や順序についての記憶で、言語化ができないものだとされています。
ところで、例えば「自転車の乗り方」についての記憶は、哲学の文脈ではknowing how(実践知、「~の仕方を知っている」)と呼ばれます。 こうした実践知は、knowing that(命題知、「~ということを知っている」)と伝統的に区別されてきました。 たとえ自転車に乗ることを可能にしている物理学的な条件や身体のメカニズム等の全てを知っていたとしても、それは自転車の乗り方を知っていることにはなりません。
むしろ「私は自転車の乗り方を知っている」と言えるのは、私が実際に自転車に乗ることができるからだと考えられます。 「自転車の乗り方なんて知っているよ」という人がいたとして、彼が自転車を漕ぎだすなりすぐにこけてしまったら、彼は自転車の乗り方を知っているとは言えなさそうです。 したがって手続き記憶は、私たちの行為なくしては空虚なものだということになります。
では今度は、「私は行為している」といえるのがどのような場合かについて、次のような例を考えてみましょう。 ある未開の民族が「ジテンシャ」なる未知の塊に乗せられたとします。 彼は「ぺだる」と呼ばれる部分に足をかけ、故郷の村に似たような構造の汲み上げポンプがあったことを思い出し、懐かしさからそれをガシャガシャと踏み始めました。 「ジテンシャ」は軽快に走り始めましたが、当の本人は思い出に夢中でそのことに気付いていません。 彼は自転車の乗り方を知っているのでしょうか。
そうは言えなさそうです。彼は知らず知らずのうちに自転車に乗っているのです。 したがって、自転車の乗り方を知っていると言えるためには、奇蹟的に自転車が走り始めるだけではなく、〈それを使って私は走ることができる〉というもう一段上のレベルの認識が必要であると言えます。
たしかに私たちの行為には、一見すると言語を使って考えずともできるように思われるものがあるかもしれません。 しかし実際に行為する際には、典型的には「それを使って私は~できる」=「それは~するためのものだ」といった、言語なくしては獲得しえない知識も必ず必要となるように思われます。
以上のような論点を背景として踏まえた上で、議論スペースを聞くとより分かりやすいかと思われます。
議論スペースを実施するにあたって
今回の議論スペースでは、リスナーの中からスピーカー登壇者も若干名募集しております。このテーマの議論に興味を持って下さった方々がいましたら、当日のスペース内でリクエスト申請を行ってください。
事前に各種資料などで調べておくとよりこの議論が面白くなると思います。
もしこのスペースで暴言や誹謗中傷などの迷惑行為や議論の趣旨にそぐわない発言などが多々見られればホスト権限でスピーカー登壇をご遠慮させていただくこともあります。ご注意ください。
では、当日の議論スペースでお会いしましょう!
追記:議論スペースの録音公開
当日の議論の様子を録音していましたので、ここに公開します。